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天空でジェット機を撃墜、竜巻に乗って降ってくる、タコと合体…トンデモからA級まで、なぜ「サメ映画」はファンの心をつかむのか?

天空でジェット機を撃墜、竜巻に乗って降ってくる、タコと合体…トンデモからA級まで、なぜ「サメ映画」はファンの心をつかむのか?

2021/07/21
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『ジョーズ』を“破ろうとする動き”

 さて、上記のような“習う型”があれば当然、“それを破ろうとする動き”も存在する。

 前述の『ディープ・ブルー』では、詳細は伏せるがオープニングで『ジョーズ』と真逆の展開をいきなりやってみせることで、意外性の演出に成功している。ほか、『フライング・ジョーズ』(2011年)というサメ映画では、クライマックスで『ジョーズ』とまったく同じ作戦でサメを撃退する…と見せかけておいて、そこからさらにもうひとひねり加えるという、なかなかユニークな展開を用意している。この2例、いずれも観客が『ジョーズ』をすでに観ていることが前提のサプライズであるという点が面白い。

1999年公開の『ディープ・ブルー』はファンも多い
2011年公開『フライング・ジョーズ』

“守破離”の概念にも似た試行錯誤の繰り返し

 もちろん、『ジョーズ』のお約束を本編に取り入れていないサメ映画もなくはない。やや海洋ソリッド・シチュエーション・スリラー物としての色彩が強いが、たとえば『海底47m』(2017年)などは、「不慮の事故でケージごと海底に沈んでしまった姉妹二人が、辺りを縄張りとする人食いザメや残り少ない空気、暗闇におびえながらも生還する方法を探る」という、『ジョーズ』の内容に依らないプロットで成功した逸品だ。

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 その他、日本国内での『ジョーズ』人気およびアニマル・パニック映画ブームの全盛期には、「とりあえず人気取りのために、ごく平凡なアクション映画やラブ・ロマンス映画ですら、まるで“サメ映画”であるかのようにジャケットを偽装して宣伝した」脱法サメ映画が何本も見受けられるが、これらはあまりいい例ではないため、具体的な作品名は控えさせていただこう。

 まるで伝統芸能の、“守破離”の概念にも似た試行錯誤の繰り返し(もっとも、努力というものを完全に放棄したかのごとき駄作もしばしば出現するが)と共に、『ジョーズ』を起点として今もなお様々なサメ映画が作られ続けている。たかがニッチな映画の1ジャンルのように見えて、そこには確かな歴史の積み重ねがある。その事実こそが、サメ映画の魅力のひとつではあるだろう。