声優のあさのますみさんは、青春を共に過ごした大切な友人の死という「喪失」の経験を、著書『逝ってしまった君へ』(小学館)として上梓した。後悔や自責の念などといった感情に苛まれながらも、この経験を通じて「ひとつ、とても大きなものを得た」と同書であさのさんは記している。

 つらい出来事をどのようにして受け止められるようになったのか、あさのさんに聞いた。(前後編の後編/前編を読む)

あさのますみさん

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「遺品整理」は遺族の方だけにやらせたくない、と思った

――大学時代に付き合っていた恋人で、長年の友人である「君」を自死でなくしたあさのさん。告別式に出席して、遺品整理にも参加されたと、本には書かれていました。

あさのますみ(以下、あさの)遺品整理は本当、友人一同で参加して良かったと思いました。自分にとっては、手を動かすことで気が紛れるというのがあったんですが、それ以上に、お母さまやお姉さまなど、遺族の方にそれをやらせたくない気持ちがありました。

 彼の場合、会社で借り上げたマンションに住んでいたので、通常よりも早く部屋を空ける必要がありました。亡くなってから時間が経っていないままでの遺品整理だったので、一つひとつから彼の生前の匂いが感じられるんですよ。それを整理するのは、彼そのもの、を捨てるに近いじゃないですか。

 お母様もお姉様も本当に、このまま消えてしまうんじゃないか……と思うくらい弱り切っていたので、そんな物たちに向き合うのは辛かったのではないかと。お二人の負担をこちらで引き受けられたらと思いながら、その場でお二人に聞きつつ、捨てるものをゴミ袋に入れていきました。

 そんなに大きくない本棚に、私が出した本が並んでいたのは驚きました。彼から「読んでる」と聞いたことはなかったので。

 

――遺族の方たちは、あさのさんと彼が、大学時代の恋人だったことを知っていたんでしょうか?

あさの いえ、ご存知なかったんですよ。私のほうは過去付き合っていた時からお母様の話を聞いていましたが、お母様のほうは告別式でご挨拶するまで、私のことを、最近まで交際していた彼女だと思っていたようです。

 彼は遺書の中で、鬱の理由として「プライベートでの別れと、仕事での役割が増えたこと」と書いていました。私を元彼女だと思っていたのに、一度も非難のような言葉を口にされなかったことに、お母様には彼のやさしさに似たところを感じました。

メモやテキスト…友人が残したものを全部見ることにした

――彼は遺書の他に、スマホにテキストや音声でメモを残していたと聞きました。

あさの はい。お姉様が告別式に彼のスマホを持ってきてくださったので、内容を全部、私のアイフォンに転送させていただきました。友人には「辛くてほとんど読めない」という人もいましたし、私も告別式当日に途中まで読んで、そこで止めてしまっていたんですね。でも遺品整理の際にお姉様から「全部読んだら考えが変わった」と言われて。それで私も、全部読んでみることにしたんです。