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――生々しい彼の言葉と向き合うのは、しんどい作業ではなかったでしょうか。

あさの そうですね。自死した日に近づくにつれて、彼の心理状態が沈んでいく……とかではなくて、浮上しているタイミングがあるんですよ。最後のメモも、「これからどういう治療が必要なのか冷静に考えていこう」とか「薬を飲むべきか冷静に判断しよう」とか、比較的前向きなメモで終わっていて。メモを読み返すたびに、結末が変わるような気がしてしまって、つらかったです。

 

わからないものは、わからないままにしておこうと決めた

――メモと向き合う中で、心境が変化した?

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あさの 最初は、彼がどうして死んだか無理にわかろうとしていたんです。周りの人も「きっとこうだったんだろうね」ということをそれぞれが語っていて。告別式ではお母様が「あの子がいい天気にしてくれたのかしらね」と話していたのも覚えています。

 それぞれが彼の死と向き合うために必要なことだったと思うのですが、私は、限られた情報の中で彼の感情や動機を決めつけてしまうことが、怖いなと考えるようになりました。

 わからないものを抱えているのは辛いんだけど、そこで「私」というフィルターを通して、彼を彼自身じゃなくして、塗りつぶしてしまうんじゃないかと不安で。理由をつけたい自分と、そうしたくない自分のせめぎあいの中で、私は、わからないことはわからないままにしておこうと決めました。

 実は、過去飼っていた猫が突然死した時に知人から、「亡くなった動物と話せる人を紹介するよ」と言われて、電話してしまったことがあるんです。

 

――どんなことを言われたんですか?

あさの「猫があなたにありがとうって言ってるよ」と言われたんですが、「ああ、これは嘘だな」と思いました。そう言われて、心が安らぐ人もいるかもしれません。でも私は、そういう情報を頭に入れてしまうと、死の形が変わってしまう、と実感しました。

 猫との大切な思い出が上書きされてしまうのは嫌だ、どんなに辛くてもそのまま受け入れようと思いました。その経験が、彼の死の受け入れ方にも影響しているかもしれません。

彼に言いたかった、たった一つのこと

――彼が死んで2年半経ち、今回の書籍『逝ってしまった君へ』が刊行されました。本を執筆する中で、心境の変化はありましたか。

あさの 変化というか、思考の輪郭がくっきりしていく感じになりましたね。漠然と「悲しい」とか「苦しい」とか思っていたことが、もっと具体的な言葉になっていった。彼に言いたかったことも、いっぱい思い浮かびました。こんなことも言いたかった、あんなことも言いたかったって。でも結局、本当に言いたいことは一つでした。