「もうムリって思って、相手にすんのをやめたんです」
特にひどいと感じたのは、玲空斗君が置かれていた不衛生極まりない環境だった。玲空斗君は排泄の仕方をしっかり教わっておらず、日に何度もお漏らしをした。朋美はおしっこが飛び散った床を拭くとか、布団を干すとかいったことをしないで、垂れ流しのまま放っておいていた。そして、変色してアンモニア臭が漂う布団に、玲空斗君を寝かせていた。ちなみに、2匹の犬も排泄をしつけられていなかったようで、家のあちらこちらで好き勝手に大小便をしていたというから、さぞかし部屋は悪臭に満ちていたことだろう。
なぜ、きょうだいの中で玲空斗君だけがそのような目にあっていたのか。公判で朋美は、次のように話している。
「玲空斗は、言葉があんまりうまく話せませんでした……。しゃべるのは、『ママ』とか『パパ』とか、あとは単語の語尾だけ……食べたいを『たい』とか。2つ以上の言葉をつなげることができなかったんです……」
「トイレもダメ……教えてもできないし、1人でもしようとしないで漏らしてばっかり……。それで、理解してない、もうムリって思って、相手にすんのをやめたんです……」
玲空斗君とのコミュニケーションがうまくいかなかったから、冷淡な態度を取っていたというのである。だが、夫婦はこの時点で、ネグレクトだけでなく身体的虐待までしていた可能性が高い。検察側が新たに示した証拠によれば、同年の7月から8月にかけて玲空斗君が交通事故にあって、東京女子医大で診療を受けた。前回の裁判で、保険会社から通院看護料を詐取したことで有罪になった件である。この際、玲空斗君を診た医師が、カルテに「服が汚い」「煙草の痕?」というメモを残していたのだ。忍は煙草を吸ったことが一度もなく、この一家で煙草を吸うのは朋美だけということは、彼女の犯行ということになりはしないだろうか。
また、翌2012年の2月5日から3月19日にかけて、玲空斗君が埼玉県の越谷児童相談所に一時保護されたこともあった。職員が、玲空斗君の行動を観察して残した所見には、言葉がしゃべれないだけでなく、他の子供を叩いたり、物を奪ったり、机をべろべろ舐める行動が見られるという記載がある。加えて、「虐待と疑われる外傷あり」という一文もあった。これらは、きちんとした養育がなされていないばかりか、暴力まで振るわれていた裏付けにもなる。