次々に犬を死なせていた…
もう一つ証拠となるのは、前回の裁判で明らかになったようにこの頃、朋美の母親の小百合が児童相談所に「虐待」の通報をしていることだ。小百合はしばらく愛人宅で暮らした後、マンションにもどってきて、忍や朋美と大ゲンカをしている。この腹いせだったのか、小百合が児童相談所に連絡して虐待を暴露したのだ。もっとも小百合も娘たちとのケンカの際に、家のガラスを叩き割ったり、鍵穴に接着剤を流し込んだりと、ずいぶんと過剰反応しているところをみれば、良識のある大人でないのは明らかだ。
児童相談所は玲空斗君を一時保護したことがあったため、この通報を重く見て調査を開始しようとした。だが、忍と朋美は逃げるようにして、隣接する東京都足立区の舎人駅近くのアパートへ引っ越してしまった。忍の母・亜佐美の証言では、同じ頃に粉ミルクの窃盗事件で忍の実家とも関係が切れていたため、この時期から一家は完全に孤立したと考えられる。
足立区のアパートで、夫婦は何の思いつきなのか、犬を次々と飼って、その数は10匹を超えた。2人は飼うだけ飼って、ろくに面倒もみなかったらしく、家に連れてきた順に次から次と死なせてしまい、そのたびに死骸を子供たちと一緒に荒川に捨てにいった。
夫婦はこうしたなかで、本格的な虐待を開始する。きっかけは、3歳になった玲空斗君が元気に動き回って、家を散らかすようになったことだった。
2人によれば、玲空斗君は台所の棚を勝手に開けて小麦粉やごま油、それに醤油を床にまき散らし、夜中に炊飯器の中身や冷蔵庫の残り物などを勝手に食べ漁るようになったという。冷凍庫にあった、凍ったシシャモを食べてしまったこともあった。玲空斗君の散らかし癖については、児童相談所の一時保護の際の所見にも残っているので、実際にその傾向があったことは事実だろう。
初めのうち夫婦は、玲空斗君がいろんなものを引っ張り出してくるたびに言葉で叱っていたが、玲空斗君は言われても理解できなかったのか、何度も同じことをくり返した。やがて忍は「言ってもわからないなら」と手を上げるようになり、朋美もそれを追認したのだ。