文春オンライン

制作費用は1話1000万円…“無名の自治体”が本気で作った官製アニメで聖地巡礼は起きた?

『政宗ダテニクル』の挑戦と失敗

2021/07/03
note

 だが、そうした場合も、本当に巡礼に来てくれるかどうかは分からない。「市が売り出したい観光地は霊山や梁川城址などです。アニメファンが見たい場所とは必ずしも一致しないかもしれません。バスケットボールを題材にした漫画でアニメにもなった『SLAM DUNK』では、坂道を下った先に江ノ電(江ノ島電鉄)の踏み切りがあり、その向こうに湘南の海が見える場所が聖地になりました。普通なら観光地にはならない場所でしょうが、ファンの一人が『ここを見つけた』とつぶやくと巡礼が始まる。行政が一生懸命やっても受けない恐れがあるのです」と話す。

 こうして、『政宗ダテニクル』の聖地巡礼は今一つパッとしないままとなったが、他にも大きな課題が残った。アニメとしての物語をどう完結させるかだ。「市と浅尾社長の間では長い間、話し合いが持たれていました」と野田課長は話す。

梁川城址には「ご先祖合体」後の伊達政宗がいる

「観光誘致を諦めたわけではありません」

 最終的に、東日本大震災発生10年の復興応援企画として、浅尾社長らが「政宗ダテニクル合体版製作委員会」の結成を呼び掛け、スポンサーを募ったり、クラウドファンディングを行ったりして資金を集め、映画化にこぎつけた。

ADVERTISEMENT

 その先行上映会を今年3月、伊達市の実行委員会で企画していたが、新型コロナの感染拡大で中止になった。これを最後に実行委員会は解散した。

「市としてアニメを活用した観光誘致を諦めたわけではありません。これまで通り『政宗ダテニクル』のキャラクターを活用し、細々かもしれませんが、きっちり、粛々と仕掛けていきたいと思います。人口減少が進む地方は全国どこでもそうですが、市外の人と手を取り合わなければ、物事が進まない時代になっています。そうした面で観光の重要性はますます高まっています」と力を込める。

 野田課長は「ぜひ、いらしてください。この4月に東北中央自動車道が全面開通し、市内に4カ所もインターチェンジができました。伊達氏関連の観光地ではキャラクターもお待ちしていますよ」と話していた。

梁川八幡神社の近くでは15歳の伊達政宗と愛姫が待っている

撮影=葉上太郎

制作費用は1話1000万円…“無名の自治体”が本気で作った官製アニメで聖地巡礼は起きた?

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー