そもそも伊達氏の初代朝宗(ともむね)も伊達郡があったからこそ「伊達」を名乗った。平安時代末期の1189年、源頼朝の奥州攻めに従って戦功を挙げ、伊達郡を領地として与えられたのがきっかけだった。それまでは常陸入道念西と称していたとされる。つまり福島の伊達は「伊達氏のルーツ」なのだ。仙台藩が伊達領となったのは、第17代政宗の時になってからである。
「私達が本家本元なのに伊達市と名付けられないのか」。伊達郡の合併協議会が「あとから同じ市名をつけてもかまわないだろうか」と、当時の自治省に問い合わせると、「既存市から異議がなければ問題はない」という回答だった。北海道伊達市も「異議を唱える立場ではない」と答えたため、二つ目の「伊達市」ができた。
「シティ・プロモーションでいくら頑張っても……」
福島県伊達市役所の野田善和・商工観光課長は「合併当初は同じ名前の市ができたということで少し話題になりました。でも、やっぱり知名度が乏しく、シティ・プロモーションでいくら頑張っても、どこにあるか分かってもらえません」と話す。
かろうじて「あそこか」と言ってくれるのは年配の人なのだという。1991年にNHKが放映した大河ドラマ『太平記』で、市内の霊山(りょうぜん)が舞台の一つになったからだ。
霊山は標高825メートルながらも、登山道は険しく、奇岩が目立つ。山岳仏教の拠点として3600もの僧坊が構えられた時期もあったという。南北朝時代に足利尊氏と激戦を繰り広げた北畠顕家(あきいえ)が城を構え、その動乱で全てが焼失した。ドラマでは美男子との評判のあった北畠顕家に、女優の後藤久美子さんが扮して話題になった。これを覚えている人が「ああ、あの霊山がある伊達市ですか」となるのだそうだ。
その後は特段話題になる出来事もなく、有名な観光地もなかったので、人々に地名を知られる機会は少なかった。転機が訪れたのは2015年だ。同じ福島県の三春町に福島ガイナックスが拠点を構え、東日本大震災(2011年3月)で傷んだ福島の復興にも寄与しようと活動を始めた。
政宗が歴代当主と「合体」するアニメ
伊達市役所は東京電力福島第一原子力発電所から約60キロメートルも離れている。しかし、爆発・火災事故の発生後は市内でも放射線量が比較的高い地点(ホットスポット)ができ、該当する家には戸別に避難が促された。風評被害にもさらされ、特産のモモなどは深刻なダメージを受けた。
「誘客したい」という背景には、こうした切実な事情があった。そこで、職員が浅尾社長に連絡を取り、「何か一緒にできないか」と打診した。
「浅尾社長は何度も伊達市に足を運び、市内のいろんな場所を見てアニメで使える素材を収集し、こんなストーリーだと面白いのではと提案してくれました」と野田課長は話す。
そうして制作が決まったのが『政宗ダテニクル』だった。