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制作費用は1話1000万円…“無名の自治体”が本気で作った官製アニメで聖地巡礼は起きた?

『政宗ダテニクル』の挑戦と失敗

2021/07/03

「市で最も大きな約500席のホールで1日に2回催したのですが、若い女性が多く、登場人物のコスプレ姿が目立ちました。私の前の席に座った女性に声を掛けてみると、九州の宮崎県からはるばる夜行バスなどを乗り継いで、1日半もかけて来てくれたというのです。駅で着替えをし、ホールまで1.5キロメートルほどの道をコスプレ姿で歩いて来たと話していました。

 それまでは、市役所の中でも『なに、バカなことをしているんだ』と担当課を冷やかに見る職員が多かったと思います。私もそのうちの一人でした。でも、本当にこのようなことが現実にあるのかと驚きました」

観光案内所の看板にもキャラクターが(道の駅「伊達の郷 りょうぜん」)

中国からの国際電話で回線がパンク

 ただ、これは最初に狙った通りの結果でもあった。聖地巡礼のターゲットを若い女性に据えていたのだ。

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「コアなアニメファンの女性には、だいたい好きな声優さんがいるのだそうで、声優のためならどこにでも訪れるらしいのです。コスプレも女性の方が好きですよね。若い人は何かきっかけがないと自治体に関心を持つことなどないでしょうが、一度興味を持ってもらえたら、年を重ねても来てもらえるのではないかと考えたようでした。私が声をかけたコスプレの女性は、第2代宗村の役だった石川界人さんのファンでした」と、野田課長は話す。

 作品は2018年2月までに第6話まで完成し、上映会には村瀬さんやブリドカットさんが何度も訪れたほか、保志総一朗さん(政宗を守るビジュアル系忍者・クロード役。福島県会津若松市出身)、小林裕介さん(政宗の幼少時から近侍として仕える片倉小十郎景綱の役)、逢坂良太さん(伊達氏の一族で重臣の一人、伊達成実の役)、遠藤広之さん(第10代氏宗の役、福島市出身)、内田雄馬さん(第12代成宗の役)、山口立花子さん(政宗の弟小次郎の役)らが上映会ごとに舞台に立った。

 小林裕介さんは、同市を走る第3セクター鉄道・阿武隈急行が、登場人物でラッピング化された時の出発式にも甲冑(かっちゅう)姿で参加した。

ラッピングされた阿武隈急行(梁川駅)
伊達市内を疾走するラッピング列車

 イベントでは野田さんらをさらに驚かせる出来事もあった。オープニング主題歌の「ミカヅキリサイズ」(まふまふさん作詩・作曲)を歌ったシンガーの天月-あまつき-さんは、第4代政依(まさより)の声優も務めたが、「伊達市を訪れる際、SNSで宣伝してくれたため、瞬く間に入場券が売り切れました。中国でも絶大な人気があるそうで、定員に達した後も『どうにかして入れないか』という国際電話で申し込みの回線がパンク状態になりました」と野田課長は振り返る。

制作費用は1話あたり約1000万円

 この頃の伊達市は「伊達氏」をテコにしたPRに一生懸命で、2016年8月にはお笑い芸人「サンドウィッチマン」の伊達みきおさんと富澤たけしさんを第1号の「伊達なふるさと大使」に任命している。伊達さんは伊達氏の末裔で、富澤さんは市内に「富沢」という地名があるという理由だった。

 市の公用車も2台を『政宗ダテニクル』のラッピングにした。これほど熱心に取り組んだアニメ戦略だが、間もなく壁にぶち当たった。作品は12話のシリーズにする予定だったという。だが、1話当たり約1000万円もの制作費用がかかっていた。