スケートボード後進国でオリンピックメダル候補が2人も…
では、なぜスケートボード後進国である日本で、金メダル候補が2人も出ているのだろうか。
その理由は、日本の都市設計にかなり関わってきていると、筆者は勝手に考えている。スケートボードには「ストリート」と「パーク」の2種目がある。「ストリート」は街中にある階段や手すり、縁石、スロープなどを真似て作ったセクションで競技するものである。狭い国土の中に、都市がギュッと凝縮され、街中にはオフィスビル、商業施設などがひしめき合っている日本の都市部は、ストリート競技に欠かせない階段やスロープが数々存在しているので、ストリート種目の恰好の練習の場である。
「ストリート」での金メダル候補と名高い堀米雄斗選手、西村碧莉(あおり)選手がともに東京都出身であるのは、あるいはそういった理由なのかと頷ける。
日本の都市開発とスケートボードの「ストリート」という種目がちょうど街中で合致し、切磋琢磨してきた歴史が今ちょうど花開いているようにも思える。
ひと昔前に、野球やサッカーの練習に送り迎えをしてもらっていた様に、近年では、スケートパークに子供を送り迎えする親の姿も見るようになった。堀米選手(22)、西村選手(20)もその1人である。幼少期から手厚いサポートをされ、そのスケートボード人生を歩んできたのだ。
絶対王者を倒した堀米選手
堀米選手は父親の影響で、6歳からスケートボードを始めた。小学生の時から、他の選手とは一線引いた才能を持ち、誰かの技を真似するのではなく、誰もやっていない技に果敢に挑戦していた。10代前半の頃には、国内トップ選手として活躍し、2019年に開催された世界最大級のスケートボードの世界大会Street Leagueにて3連覇を果たすという快挙を遂げ、世界中のスケーターから絶大な支持を得ている。
そして今年5月に行われた「Street Skateboarding World Championships 2021 in ROME」では、絶対王者Nyjah Hustonを抑え、金メダルを獲得するという、今、最もオリンピック金メダルに近い選手である。ちなみに3位の選手・白井空良(19)も日本人である。
そんな堀米選手は、父親からカルチャー面の英才教育をされていたこともあり、そのスケーティングにはスケートボードの歴史とカルチャーを重んじている側面も感じられる。そのため90年代のスケートボードを知る世代からの人気も非常に高いのである。
「スケートボード一家」で育った西村選手
一方、女子の金メダル候補と名高い西村選手は、父親と2人の姉もスケートボードを楽しむ「スケートボード一家」で育ってきた。7歳からスケートボードを始め、その数年後には全国大会で優勝するなど、才能を開花させてきた。2016年には、エクストリームスポーツの最高峰である『X-GAMES』や、全世界のスケートボーダーの中から選ばれた8人しか出場できない『SUPER CROWN』に出場し、世界にその名を轟かせた。
また、今年行われた「Street Skateboarding World Championships 2021 in ROME」では堀米選手と並んで金メダルという快挙。男女の表彰台に日本人選手が3人も立つというなんとも素晴らしい光景を見ることができた。
堀米選手、西村選手は現在、スケートボードの本場カルフォルニアに拠点を移し、有意義にスケートボードに打ち込んでいる。堀米選手にいたってはアメリカで家を買うという、かねてからの夢をかなえている。日本ではあまり知られていないスケートボード選手が、世界では多くの人から評価されているのだ。