浮かぶ顔は、実在する誰かの顔
「その体験が、ものを見るということについて改めて考えるきっかけになったらうれしい。あ、でも人によっては、見るというより見られることを強く意識することになるのかもしれない。
なにしろ巨大な顔は、実在する人の顔を大きくしてあるので、遭遇したらやっぱり『見つめられてる!』ってなりそう。人って見られていると思うと、行動や言うことが変わったりもしますよね。それだけで変化してしまう自分って何なのだろうとか、あれこれ考えさせられるかもしれません」
浮かぶ顔は、実在する誰かの顔なのだという。いったい誰の、どんな顔?
「2019年に『浮かぶ顔』の候補を世界中から募集しました。インターネットで募集したり、東京の各所で僕らが働きかけたり。そうしたら生後数ヶ月の赤ちゃんから90歳代の方まで、老若男女の一千以上の顔が集まった。公開の『顔会議』をしたり、僕らのなかで数え切れないくらい話し合いをして、実在するひとりの顔を選んでいます」
巨大になって浮かぶ顔は、はね返しの強い顔
多数の顔からたったひとりを選ぶのは、さぞや大変だったろう。どのような基準があったのか。そのあたりの機微についてはアーティスト荒神明香さんが教えてくれた。
「正解の顔があらかじめあるわけじゃありませんからね。『顔会議』で『はね返す顔』というキーワードが出てきたので、それが基準になっています。巨大になって浮かぶ顔は、無数の視線にさらされるでしょうけど、それらを一つひとつ跳ね返せるような顔がいいんじゃないかということです。
はね返しの強い顔というのもよくわからない基準ではありますけど、ずっと見続けているとけっこう選べるようになってくるもので、かなり少数に絞り込めてはいます。それらを今度は、東京のいろんな場所の空の写真上にコラージュして置きます。東京の空にどれだけハマるかな? という確認ですね。
すると不思議なことに、ものすごく選び易くなります。すごく哲学的な光景を生み出す顔を選ぶことができると確信しています」
それにしても、考えれば考えるほど奇想天外ではないか。街のどこかにいきなり巨大な匿名の、でも実在の顔が浮かぶだなんて。
そこにどういう意味があるのか。考えるとっかかりがなさすぎて、混乱してくるのだが……。