文春オンライン
現代アートチーム・目 [mé] が東京上空で挑む 夢を「まさゆめ」にするプロジェクト

現代アートチーム・目 [mé] が東京上空で挑む 夢を「まさゆめ」にするプロジェクト

アート・ジャーナル

2021/07/03
note

「顔を空に浮かべる」という発想の出所

「私たちの活動はまさに、言葉も浮かばないような状態をつくることを目指しているんです」

 と、南川さんが教えてくれた。

 

「ふだん生活しているときの僕らのまわりは意味で溢れていますよね。作品に触れることで、それら意味のベールがすべて吹き飛ばされて、『は?』というしかない状態をつくり出したいというのが、いつも思っていることです。

ADVERTISEMENT

 どんな思考もまとわない生身の存在になった時に、『自分ってなんだっけ?』といった根本的な問いに向き合えるんじゃないかという気がしていて」

 なるほどそんな深遠なねらいがあるとは。とはいえ「顔を空に浮かべる」といった突飛な発想はどこからやってくるのか。

《まさゆめ》プロジェクト制作風景

 これには明確な出所があるという。荒神さんがかつて見た夢が、もとになっているのだ。

「中学2年生のときの夢です。夢のなかで電車に乗っていると、窓の向こうの町の上空に、お月さまのように大きな人の顔が浮かんでいました。これはずっと忘れないようにしようと思って、なんとか留めてきた記憶がこうしてつながった。忘れずにいてよかった」

少女の夢にかたちを与える

 なぜその夢は、それほど忘れ難かったのでしょうか?

「巨大な人の顔が浮かんでいる様子は、現象というよりは、明らかに人の手によって浮かべられたものだったんですよね。そのことに私は夢のなかで感動した。こんなことをやってしまってもいいんだ、こんなことをしている町や大人たちがどこかにいるんだと知ることができて、すごく勇気をもらえたんです。

撮影:北沢美樹

 目覚めてからも、あんなことが本当にできるんだったら世の中ってすごいぞと感じられて、いつかそういうことが起こったらいいな、だから忘れないでおこうと考えたんでしょうね」

 不思議な夢を見た少女は、長じてアーティストとなり、いままさに夢を「まさゆめ」にしようとしているわけだ。

「そうです、このプロジェクトをたくさんの人と進めていられること自体が、私にとっては奇跡。うれしい気持ちが、ずっとずっと続いています」

 ひとりの少女の夢が「まさゆめ」になるそのときは、正確な日時はわからないけれど、この夏のうちであることはたしかだ。

左から荒神明香、増井宏文、南川憲二。 撮影:北沢美樹

 ぽっかり時間が空くたび、東京方面の空を見上げるクセをつけておこう。

 すべてを忘れてただ「あ!」と驚くだけの存在になりきる、そんな稀有な体験ができるかもしれないから。

現代アートチーム・目 [mé] が東京上空で挑む 夢を「まさゆめ」にするプロジェクト

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー