「専門性」が高い品質を支える
「餅は餅屋」と言うけれど、トラブルがつきものの旧車を扱うにあたり、特定の車種に対する専門性はことさら大きな意味を持つ。整備業界ではその車種によくある故障や不調のことを「持病」と表現したりするが、そうした症状の専門医であるためには、無数の事例を通じて培われたノウハウが必要だ。
井上氏はS30Zやハコスカといった車種のことは、それこそ「ネジ一本」に至るまで理解しているという。ボディを見れば現在の不調の原因はもちろんのこと、それがどのような症状を引き起こすかまで予見できるわけである。
「こういう(ハコスカやZといった)車は全部わかる。部品のこともそうだし、ここ注意しなきゃいけないってポイントも含めて。他のメーカーのも自分では弄るけど、店としてはやらない。もっと他の、その車種のこと極めてるお店に行った方がその人のタメになるから。そりゃエンジンだって組めるけど、そういう注意点とかは極めてるとこじゃないと」
パーツ単位でもそれは同様であり、井上氏は「キャブ車の専門家」であるがゆえに、たとえば同じS30Zであっても「インジェクションにしたい」という要望があれば、その部分はインジェクションのプロに依頼する。
こうした専門性への敬意は、自らが特定車種の専門家として極点にいるという自負の表れでもあるだろう。
工業製品がユーザーの理解から遠のき、またその製造過程もマニュアル的に細分化されるようになって久しい昨今、失われつつある「経験にもとづく直感」の意義をあらためて思わずにはいられない。
作っては捨てる大量消費のプロセスのなか、場面に応じて「直す」技術の存在に、何やら「モノとの付き合い方」についての示唆を受けるようでもあった。
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