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 その証拠に、エンジンを高出力なものに載せ替えたり、ことさら軽量化を図ったりはしていない。むしろ防音処理や鉄製のボディパーツなど重量面では不利な点も多い。あくまで快適に普段使いできることを前提にした作りなのである。

車高が低い車への乗降性を高めるため、ステアリングに跳ね上げ機構を採用。「オッサンでも乗りやすいように」と井上氏 写真=坂口尚

「今の人たちサーキットとか行かないし、内装ドンガラにしたって真似しようと思わないでしょ」

 確かに、鉄板剥き出しの内装では「いかにも」な感じがして、どうしても「別世界の住人」のように見なされてしまう。

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「それだと俺には関係ない、できないって思われちゃうじゃない。まずは快適に乗れて、『自分でも乗れる』って思ってもらうこと。それでいてサーキット走ろうと思えば本気の人たちとも渡り合えるっていう」

メーターも視認性に配慮し、Defi(日本精機)のLED式を採用。「オッサンにもよく見える」とは井上氏の談 写真=坂口尚

 あくまで「自分にも乗れそうだ」と周囲が思えるラインで、高い走行性能を結果として示す。そこにスターロード流の「美学」を見出すこともできようが、むしろ本質には井上氏自身の「サービス精神」があるようにも見受けられた。

「普通」が一番難しい

 旧車を仕上げるうえでのバランス感覚は、さまざまな顧客のニーズに応え続けてきた井上氏ならではのものだろう。

「よく『普通に乗れればいい』って言われるんだけど、普通が一番難しいのよ。こういう車に関しては特に」

 確かに、「街乗りを快適に」「高速で安定感を」など明確な希望が示されていれば、方向性も定めやすい。ところが「普通」というのは当人の運転特性や走行する場面によって異なるがゆえに、最終的なゴールが見えにくい。どのような使い方でも満足のいくよう、総合的なバランスを高めていくよりほかないのである。

ウィンドウには、警察車両などにも導入されているというガラスフィルムを施工している。飛び石などのリスク対策も万全だ 写真=坂口尚

「快適ってことはバランスがいいってことだから。バランスがよければ、たとえサーキットだろうがしっかり走れる」

 車としての総合的な完成度を高めれば、おのずと場面を問わずに性能を発揮できるというわけだ。