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エンパシー搾取をさせなかった伊藤野枝

 ケア階級には女性が多いですね。そもそも女性は、昔から家父長制の下で男性の世話をしてきました。だから「帰ってきたら一杯飲みたいんだろうな」とか「しわだらけのワイシャツを着せていくわけにはいかないから、アイロンをかけておこう」とか、エンパシーが働いてしまう。でも、男性は「彼女のスカートにアイロンかけてやるか」などとは考えないですよね。家庭においては、夫が妻のエンパシーを搾取しているわけです。

 歴史的に女性が低い立場に置かれてきたことに疑問を覚え、闘った先輩がいます。例えば、大正時代の婦人解放運動家の伊藤野枝です。

「私は自分がわがままだといわれるくらいに自分の思うことをずんずんやる代りに人のわがままの邪魔はしません」

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 自我をしっかり持ち、自分はワガママであると宣言し、結婚制度を否定し、自由恋愛を繰り返し、子どもを7人もうけながら婦人解放運動に邁進しました。最後のパートナーの大杉栄はその時代のアナキストの代表格。やはり恋愛に奔放で愛人の一人に刺されて生死の境をさまよったという男ですが、野枝が子どものオムツを洗わないので、大杉と弟分のアナキスト村木源次郎がオムツを洗いました。大杉は育児や家事の面ではエンパシーを働かせたようです。

 エンパシーを搾取されないようにするには、伊藤野枝のように、あらゆる支配を拒否する、自分はこうありたいという自分自身の軸を持っていなければいけません。すなわちアナーキーでなければいけない。今の時代を生きる女性たちには、この「アナーキック・エンパシー」(私の造語です)を自分のものとすることをおすすめします。

 家庭内において、職場において、社会において、女性たちに伊藤野枝的な嵐が吹き荒れれば男性も変わらざるを得ない。男性がエンパシーを使わなければならない場面も増えてくるでしょう。

ロミオとジュリエットになりきって書いたラブレター

 では、エンパシーをどのように鍛えればいいのか。コロナ禍のイギリスの教育にヒントがありました。ロックダウン中、息子はオンラインでシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の授業を受けていたのですが、そこでこんな宿題が出ました。

「主人公になりきってラブレターを書く」

 私の世代であれば、男子がロミオになり、女子はジュリエットになったと思いますが、息子の世代は違いました。