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 第一週の課題は、男子生徒も女子生徒もロミオになりきって、ジュリエットにラブレターを書くことでした。そして翌週は、全員がジュリエットになって、ロミオにラブレターを書いたのです。まさに自分と違う人の靴を履いてラブレターを書いてみることで、エンパシーを養わせている。

 指導した先生の話では、マッチョで反抗的な男子生徒が、ジュリエットとしてとても甘いラブレターを書いたり、おとなしい生徒が超クールなラップのラブレターを書いたり、思いもよらない傑作が生まれたそうです。これは大人でも応用できそうです。

未来の人へのエンパシー

 息子の学校のエピソードをもう一つ紹介しましょう。昨夏にブラック・ライブズ・マター運動が立ち上がったときに、イギリスでは17世紀の有名な商人の銅像が倒され、海に投げ捨てられました。黒人の奴隷貿易に携わった人だったからです。このことが授業で取り上げられ、この行動は正しかったのか、生徒たちが話し合いました。いろいろな意見が出るなか、一人の生徒がこう提案しました。

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「小さな映写小屋を作って、銅像が引き倒された時の映像をずっと流しておこう。こういうことがあったということを知るのは未来の人の権利だから」

 これは未来の人に対するエンパシーです。日本の政治家にも聞かせたいと思いました。未来の人のために、記録は捨てるな、と。

ブレイディみかこさん ©️Shu Tomioka

※全文は『週刊文春WOMAN』 2021年 夏号にて掲載中。

 Brady Mikako

 1965年福岡県生まれ。ライター、コラムニスト。96年に英国ブライトンに移住。ロンドンの日系企業勤務を経て、無料託児所でボランティアとして働きながら、保育士の資格を取得。2017年『子どもたちの階級闘争』で新潮ドキュメント賞、19年『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で毎日出版文化賞特別賞、本屋大賞ノンフィクション本大賞などを受賞。

text:Atsuko Komine
photographs:Shu Tomioka

他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ

ブレイディ みかこ

文藝春秋

2021年6月25日 発売