「旅館破壊事件」最古の証言者は橋本真也
この旅館破壊事件について語られた記録をさかのぼってみると、興味深い事実に突き当たる。専門誌やメジャーな雑誌に限ってみれば、もっとも古い「事件の証言者」は、2005年に40歳の若さで死去した橋本真也だった。
事件から5年が経過した1992年、週刊誌『アサヒ芸能』のワイド特集に「プロレスラー橋本真也は巡業先で旅館を1軒ブチ壊した」(10月29日号)という短い記事が掲載された。
そこで橋本は次のように語っている。
「飲み食いしているうちに、酒豪、健啖家はだれかということになりましてね。“おれがいちばん強い”“いや、おれだ”と目の色を変えるのが出てきちゃった。そのうち、あちこちで取っ組み合いや力比べが始まって、収拾がつかなくなっちゃったんです」
「ぼくはそんなこと、やった覚えはないんだけどね(笑)。そのうち、トイレで暴れるやつまで出てきたんです」
「弁償? 坂口(征二)社長以下平身低頭。100万円払ったようです。いまにして思えば、よくぞ警察に通報しなかった。われわれは、その前にも名古屋で養老乃瀧(居酒屋)をつぶしているんだから(笑)。最近はみんな、酒癖はいいですけどね」
そして橋本は、旅館を離れる際に女将さんからかけられた「言葉」を語っている。
「お願いですから、二度とうちに来ないでください」
ためらいなく話に尾ひれをつけて語るプロレス界の住人
この記事では、単純に飲み比べがエスカレートして騒動に至ったということになっている。ところが、当時の記録を調べると橋本はこの現場にいなかった。
橋本は、風邪のため1月17日からシリーズを欠場し、巡業先から東京に戻っていた。つまり橋本は、古舘氏と同じく、自分がその場にいなかったにもかかわらず、この武勇伝を自慢げに語っていたことになる。
「破壊王」と呼ばれた橋本が現場にいなかったことは、不幸中の幸いだったかもしれないが、たとえその場にいなくても、ためらいなく話に尾ひれをつけて語ってしまうプロレス界の住人の特性が、ここには象徴的に現れていると言えよう。
このとき橋本が語った「二度と来ないでください」という旅館の女将の言葉は、伝説を締めくくる「オチ」としてあまりに有名になっている。確かにインパクトの強いセリフではあるが、その場にいなかった橋本がその言葉を直接聞くはずはなく、果たして本当の話なのかどうか、なんとも疑わしいとしか言いようがない。(#2へ続く)
その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。