加藤シゲアキの技術と成長
まずはやはりデビュー作の『ピンクとグレー』(角川文庫)を挙げよう。
小学生の時に出会い、幼馴染として友情を育んだ大貴と真吾。ふたりは高校2年生で雑誌の読者モデルとなったのを機に、芸能界に入る。しかしその後、ふたりの道は分かれた。ひとりだけが売れ、スターダムを駆け上ったのだ――。
ピンクが赤と白の、グレーが黒と白の間であるように、人は皆、何かの間で揺れ動いている。そんな姿を青春と重ねて描いたこの物語は作家・加藤シゲアキの出発点であると同時に、2つの時制を行き来しながら語る構成力と、ここ一番でハッとするような表現を用いる描写力を見せつけた作品でもあった。
だがこの時、世間が騒いだのは「アイドルの」「ジャニーズの」加藤シゲアキが小説を書いた、ということだった。作品よりも作家に注目が集まったのだ。
決して幸福とは言えないこの状況を、加藤シゲアキは書き続けることで少しずつ、だが着実に跳ね返してきた。そうして実績を積み、知名度頼りではないことが証明された今、このデビュー作をあらためて読んで頂きたい。これほどまでに高度なテクニックを使っていたのかと驚くに違いないから。
これから初めて加藤作品を読むという人に薦めたいのが短編集『傘をもたない蟻たちは』(角川文庫)だ。渋谷や芸能界という馴染みの舞台を離れた初めての作品集だが、これが驚くほど完成度が高い。恋愛小説ありSFありサラリーマンの転落物語あり。こんな引き出しがあったのかと瞠目すること請け合い。
特に目を引くのが「にべもなく、よるべもなく」だ。親しい友人が同性愛者だと知った男子中学生が主人公。反射的に「気持ち悪い」と感じ、友人のことをそう思った自分を嫌悪する。理解したいのにできないという痛切な足掻き。若い読者にぜひ読んでほしい短編である。
『チュベローズで待ってる』(扶桑社)は、22歳の主人公がホストクラブで働きながら就職試験に挑戦する「AGE22」と、その10年後を描いた「AGE32」からなる2巻組だ。上巻は夜の世界を通して自分の未知の一面を再認識するという青春小説だが、下巻に入るとガラリと趣が変わる。上巻で起きた事件が思わぬ形で蘇るミステリなのである。成長譚だったはずの上巻がまったく別の物語に姿を変え、テーマすらも反転してしまう。ここでも技術の高さが光っている。
ぜひすべてを手にとってほしい6冊
加藤作品は『オルタネート』を含めて6冊。ぜひすべてを手にとってほしい。刊行順に読めば作家・加藤シゲアキの成長が浮かび上がる。そしてこれからもその成長をリアルタイムで追うことができるのだ。読者冥利に尽きるではないか。