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《伝説のAV男優》「今まで父親のロクな思い出がなかっただろうから…」余命1年の沢木和也が何も知らない息子に残した別れの“言葉”

『伝説のAV男優 沢木和也の「終活」 癌で良かった』より#2

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 それにAV監督の魁さんに対しては、金を送ってくれるのはいいけど「何が目的なんだろう」って、有り難すぎて逆に身構えてたくらいなんだから。

 こうやって損得を抜きにして親身になってくれるAV業界人だっているんだと気付けたのは、全て癌のお陰だよね。よく「自分が困った時に助けてくれる人は誰か」なんて話を聞くけど、あれは本当だよ。羽振りが良い時は人間なんかいくらでもすり寄って来るもの。でも、その中に信頼の置ける人間なんかいやしないんだ。

癌で取り戻した家族の形

 俺はこういう性格だから、何かと言うと女房に当たり散らしたし、夫婦の会話の中に離婚って単語が出たこともあった。だけど彼女は俺のせいで親と縁切りまでしているし、実際に別れるという選択肢はなかったね。

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 過去に2~3回、俺がキレて怒鳴って泣かせたなんてことはあったけど、女房も俺も一晩寝たら忘れちゃう、感情が長続きしないタイプなんだ。それで今まで上手くやってこれたんだと思うな。

 以前は俺が亭主関白過ぎて、俺が決めたことしかやらせないっていう独裁者がいるような家だったんだけど、癌になって体力がなくなって、身体の痛みもあって、昔のように俺がリーダーシップを執ってガンガン引っ張ることが出来なくなってしまった。

 そうしたら、女房は自由に思ったように動けるようになって、自分の判断で生きられることの楽しさを味わっているみたい。

 息子は反抗期のど真ん中って感じがあるけど、病気になってからお互いに優しく接することが出来るようになった気がするよ。

沢木氏が書いた息子への手紙

 俺は今までが毒親すぎたから、変えなきゃならない部分が多かったね。だけど俺の体力的な問題だけじゃなくて、今まで父親のロクな思い出がなかっただろうから、残りの時間で少しでも親父の良い思い出を残してほしいなと思ったんだ。そういう目的があったから、これだけ頑固でワガママな俺でも、自分を変える努力は苦ではなかったな。

 ここしばらくの間、息子は俺に対して知らんぷりをすることが多くて、典型的な思春期の男の子って感じだったんだけど、その距離感がだいぶ変わったなと実感してるよ。