2020年4月11日。緊急事態宣言が発令され、新型コロナウイルスによるパニックが本格化していた時期に、とある男性がTwitterでステージ4の癌により、余命1年を宣告されたことをカミングアウトした。ツイートの主は沢木和也。1980年代から活躍しているベテランAV男優だ。
それから今年5月にこの世を去るまで、彼は自分の人生の「終活」を続けた。病気のこと、性への目覚め、AV活動、逮捕…何も知らない息子のために、破天荒な人生をすべて綴ったのが、沢木氏の『伝説のAV男優 沢木和也の「終活」 癌で良かった』(彩図社)である。同書から一部抜粋して、沢木氏の家族の話を紹介する。(全2回の2回目/#1を読む)
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直近の金銭事情
ここ何年かの話をすると、男優30周年を機に男優ギャラを下げたんだ。もう5~6万円なんてギャラで仕事がもらえる時代じゃないし、そこまでハードなカラミは出来ないから、そんな男優を使ってもメーカーからしたらコスパが悪すぎると思ったんだよ。
それでギャラの設定を3万円程度まで減らしたんだけど、思ったよりも仕事は増えなかった。直近の話に限ると、病気を抜きにしてもここ3年は仕事の数が減って、金額も落としちゃって、どうにもならない状況だったな。
今は50代になって身体も動かなくなってきて、AV男優としての先はないんだ。30代の頃の暗黒時代は身体だけは頑丈だったから、何とか盛り返すことも可能だったけど、この年齢になると体力勝負の世界でもう一発っていうのは無理だよね。
そうしているうちに息子の進学があり、野球道具を買い揃えてやりたいとか、何かにつけて金が必要になってしまって、このままではどうにもならない状態だったんだ。夫婦の生命保険を切り崩して金を工面するとか、本当にギリギリの金銭事情だった。
「もう誰かに金を借りてスナックでも始めるしかない」と思っていたところで癌が発覚して、変な言い方だけど命が助かったね。何をするにも保険が使えるし、100万円程度だけど生命保険もおりたし、コロナ禍が始まってからは持続化給付金で100万円もらえて、それでどうにか生き延びている。
AV業界は今はベテランも若手も仕事が減る一方で、クラスターが発生しかけたとも聞いている。そのせいで現場の数が減って、みんな平等に金に困ってしまっているようだね。
そういう意味では、自分は本当に変なところで運がいいなと思うよ。あそこで癌になっていなくて、普通に働いていたら、今頃マンションを売って流浪の身になってしまっていたかもしれない。
ただ光明も見えていてさ、AV出演強要問題を経て本番行為に対して業界内でも色々な意見が出たでしょ。その流れで、一時期よりもドラマ物のAVが増えているよね。そういう状況だったら、俺ら世代のように役者も出来るベテランAV男優の方が、むしろ出番はあるのかもしれないなと思うんだ。自分も身体が動く限り仕事を回してもらえるように、可能な限りコンディションを整えて、頑張って現場に通おうと思ってるよ。田渕君や大島君みたいに、まだまだ頑張っている同世代のAV男優が何人かいるんだから、俺が消えるわけにはいかないだろ。