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《伝説のAV男優》「今まで父親のロクな思い出がなかっただろうから…」余命1年の沢木和也が何も知らない息子に残した別れの“言葉”

『伝説のAV男優 沢木和也の「終活」 癌で良かった』より#2

note

 ウチは色々と問題のある家庭だったと思う。主に俺自身の責任なんだけど。それが癌になって余命も分からない状態になって、初めて家族とまともな人間関係が築けたんじゃないかと思うんだ。

 こういう家族との関係の再生みたいなことも、きっと終活の内に含まれているんだろうね。俺はつくづく人生を終える理由が癌で良かったなと思うよ。

癌で良かった

 癌という病気になってから、自分の人生の総まとめが出来て良かったと感じるようになった。家系的にくも膜下出血など脳をやってしまう人が多く、自分自身も喫煙するし酒も大好きなので、そのリスクは高い。自分の死因はそれだろうなと思っていた。

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 だけど一瞬で死んでしまう脳や心臓の疾病と違って、癌は死までに時間の猶予がある。その間に色々なものを残せるし、自分自身の手で死ぬ準備ができる。こうして終活の一環として本を出せたのも、癌だったからこそだ。

沢木氏の息子が書いた沢木夫婦

 AV業界の仲間たちや、俺の治療費を集めようとチャリティーイベントを開いてくれたひとたち、それにクラウドファンディングの支援者たち。俺が癌になったからこそ、誰が信用できる人間だったのかが分かった。殆ど付き合いのなかった人が親身になってくれたり、面倒をみてやったはずの後輩が一切連絡をよこさなかったり。人生の最後で「この人達が正解です」という答えが出た。

 自分は連絡先を持っていると酔っぱらった時などに夜中でも平気で電話をかけてしまうので、ある時「みんなに迷惑だ」とほとんどの連絡先を消してしまった。それでも俺を心配してくれる人は、わざわざTwitterのDMなど連絡手段を探して話しかけて来てくれた。

 変な言い方になるけれど、俺は自分の命がどれくらい残っているか分からない状態になったいま、AV男優になりたくて仕方がなかった純朴な埼玉の田舎者の少年に戻れた気がしている。

 こんな生き方をして来て、知らない内にヘドロみたいにこびり付いていた悪い憑き物を、無償の支援をしてくれたみんなのお陰で洗い落とせたように思う。

伝説のAV男優 沢木和也の「終活」~癌で良かった

沢木 和也 ,荒井 禎雄

彩図社

2021年6月29日 発売

《伝説のAV男優》「今まで父親のロクな思い出がなかっただろうから…」余命1年の沢木和也が何も知らない息子に残した別れの“言葉”

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