23日、渋谷などの街頭で1500枚のビラ配りをする「超能力番組を告発する会(*10)」(仮称)は、「あいまいなものが、テレビを通じると、いかにも真実になってしまう魔性」を問題にしている。このグループは若手のアングラ映画制作者らが発起人となったもので、26日午後8時から、東京渋谷区桜ケ丘三丁目の「ポーリエ・フォルト」で超能力番組を考える討論会を開く。
*10 超能力番組を告発する会の発起人は7人(記事に後出する伊東の友人や彼が経営するスナックの常連たち)。会の発端について、発起人の一人(和田稔)は、次のように話す。「売りコトバに買いコトバですよ。スナックで超能力番組が話題になっていて、7人の仲間もそれぞれ半信半疑。それに対して店にくるある客が「あれはウソに決ってる」というんだね。「テレビでウソを流すというのに腹が立つなら、実際に抗議したらいいじゃないか」というんで、よし、それならっていうことになったんですよ。若さ、いやバカさかな」「田中政府よりだれしもテレビの方が信じられますよねえ。ボクらだって、テレビがあんなに不確実とは思わなかった。だからこの会で、テレビを信じきっている人たちに、テレビの問題の多い体質を気づいてもらえば、それでいい」。彼らは最初、民事訴訟に持ち込もうと、知人である「朝日新聞」の記者に相談した。訴訟は困難と断念したが、相談に乗った記者が運動を起こすという彼らを記事にしたため、「超能力番組を告発する会」(仮称。正式名称は「メディアを考える会」となる)は、誕生と同時に社会に知られる存在になった(同誌149ページ)。
会の発起人の一人、伊東哲男さん(25)は「超能力を信じる人がけしからんなどとはいえない。しかし、一連の超能力番組は、実体が不明確なものを、視聴率がいいからと、いかにも本当らしく見せ、テレビの性格を巧みに使った手品の疑いが濃い。たかがスプーンなどといっていると、もっとこわい視聴者操作が起きたときに防げなくなる。視聴者への影響を安易に考えてほしくない」という(*11)。
*11 「朝日新聞」1974年5月23日付朝刊
放送基準に抵触する問題性については論議されなかった
子どもへの悪影響を懸念する声に対しては自粛を決めた放送局もあったように、放送局に反省・配慮の対応が見られた。しかし、「放送基準」(103条「占い、心霊術、骨相・手相・人相の鑑定、その他迷信を肯定したり科学を否定したりするものは取り扱わない(*12)」)に抵触するという指摘やテレビが非科学的な事柄を真実のように放送することの問題性については、論議の進展が見られない。
*12 日本民間放送連盟「放送基準」(1970年〔昭和45年〕1月22日改正)
前記の記事で言及されている「20日の記者会見」は、日本テレビの社長会見(定例)であり、「週刊朝日」によると、同席した津田昭制作局長(当時)が次のように語っていた。
「インチキの超能力を放送するのはやめた方がいいという声もあるが、超能力については、まだ科学で否定しきれない未知の部分がある。まあ、人命にかかわるとか、国家社会に重大な影響をもたらすとかいうことじゃないし、スプーンを曲げたり、折ったりする程度の、単なるお遊びだから(*13)……」
*13 朝日新聞社編「週刊朝日」1974年5月31日号、朝日新聞社、20ページ
「単なるお遊びだから」という認識によって、「放送基準」(103条)は乗り越えられていたとしても、「放送基準」(103条)に抵触することは否定できない。しかし、テレビが超能力など非科学的な〈オカルト〉を真実のように放送すること、科学を否定しかねない番組を放送することに対する批判・非難は高まらなかった。
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