昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2021/07/21

 その証拠にブランコは、三振数はかなり多いが、気を抜いたスイングを見たことがない。

 そのことを落合監督はわかっているから、不調のときもブランコを四番から外さなかったのであった。

 打撃練習のあとで始まった試合は、チェン・ウェイン(2020年末、阪神タイガースと契約)の好投で中日が勝ったものの、ブランコは残念ながら内野ゴロばかりで、ホームランは見ることができなかった。だが、私にとってブランコは中日の外国人選手のなかで落合監督と一番つながりの深い選手であった。

落合博満を楽しませた男

 落合が中日の監督のときに、蔵本英智という選手がいた。後に苗字を外し、英智と登録名を変えた。中日の選手のなかでは体の大きな方ではなかったが、肩が強いし守備が上手だった。落合が監督になった1年目から、守備固めで9回から試合に入っていた。その試合の流れで、外野のポジションはどこになるかわからない。

©文藝春秋

 9回に英智が守備固めに入ると、不思議と英智のところへ難しい球が飛んでくる。英智はそれを軽く捌く。いやいや、ギリギリで飛び込んでキャッチすることもあるし、ホームにノーバウンドで返球してタッチアウトにすることもある。

 ともかく足が速い。肩が強い。動きがよい。躊躇しないで飛び込んでいく。

 しかし、ときには失敗もある。ランナーがいて、レフト前ヒットを打たれたときに、英智はホームで刺そうと前に突っ込んだ。だが、そのまま股下を抜かれサヨナラ負け。悔しがり方は半端なかった。膝をついて、しばらく立てず、本当に悔しがっていた。

 それでも、英智は1回きりの出番で、見せ場をつくるのだ。落合はその才能を見抜いて、必ず使う。迷いなく使う。

欠かせない存在

 英智は、落合の計算通りに動いてくれる控え選手のナンバーワンである。自分の役割を充分に果たした選手だ。落合の守りの野球では欠かせない存在であった。

 英智はときどきバッターボックスにも入った。テーマソングはザ・ハイロウズの「日曜日よりの使者」と、RCサクセションの「雨あがりの夜空に」である。

 英智は脚が細くてスタイルがよく、顎に鬚をたくわえ、一見、野球選手には見えない。ロックンローラーのような風貌にも見える。ふたつの曲で自らのテンションを上げマイナス・オーラを吹き飛ばし、観客に元気潑剌としたプレーを見せるのが、自分の使命だと信じているのだ。