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『千と千尋』坊、『ハウル』マルクル役に抜擢

『グッドニュース』(99)で、中居正広の息子役を演じてドラマ・デビュー。以降、『QUIZ』(00)、『涙をふいて』(00)、『ムコ殿』(01)などのドラマに出演し、瞬く間に人気子役に。いまにして思うと、彼には子役の“あざとさ”みたいなものが感じられなかった。ルックスだけでなく、イノセントな子供本来の可愛さも滲み出ていた気がする。数々の作品で顔を合わせている大後寿々花も、『あいくるしい』(05)のときは、「神木君は電車の本をずっと読んでいて、その話ばかりしていたのですが、今回は電車の話はしなかったし、すごく変わっていて驚きました」と『遠くの空に消えた』(07)での共演時に目にした、神木のピュアっ子ぶりを振り返っている。(※3)当時の彼の言動は無意識なものだと思うが、《神木家の家訓 その1:性格のかわいい人でありなさい》が活かされたエピソードではないだろうか。

 そのイノセンスぶりと高い表現力に着目したのが、宮崎駿監督。『千と千尋の神隠し』(01)で湯婆婆が溺愛する息子で巨大な赤ん坊・坊、『ハウルの動く城』(04)ではハウルの弟子・マルクルのボイスキャストに抜擢。8歳で坊を演じ、「監督に教えてもらったとおりにセリフを言って、仕事という感覚はあまりなかった」と振り返っているが、声は可愛いのに容姿は奇怪で性格は傲慢な坊は鮮烈な印象を残した。(※4)

©文藝春秋

 以降、長瀬智也、竹内結子、篠原涼子と共演した『ムコ殿』(01)、悪役レスラーの父に複雑な想いを抱く息子を演じた『お父さんのバックドロップ』(04)、上戸彩が扮する女子高生をエロチャットの世界へと導く小学生を演じた『インストール』(04)など、映画にドラマにと引っ張りだことなる。

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「演じるというのは、魂を削ること」

 そんななか、映画初主演作『妖怪大戦争』(05)で三池崇史監督と出会ったことで、当時11歳だった彼の演技に対するマインドが一変する。三池監督から、役柄の置かれたシチュエーションなども意識して演じることを徹底的に叩き込まれ、「演じるというのは、魂を削ることなんだ」と説かれて奮起、俳優としてさらに邁進することを誓ったという。(※2)この謙虚な姿勢、そこから確実になにかを学んでいく姿勢は《神木家の家訓 その2:実るほど頭を垂れる稲穂かな》の賜物ではなかろうか。

 2009年、細田守監督の『サマーウォーズ』で、数学に関しては非凡な才能を持っているがコミュ障気味という主人公・小磯健二のボイスアクトを務める。婚約者を装うバイトを持ち掛けてきた校内のアイドル・夏希(桜庭ななみ)の一挙一動にドギマギし、彼女の実家に結集する個性豊かな家族たちにホッコリし、架空世界から現実世界に侵食する凶悪アバターとの戦いにアガるさまを、コミカルかつエモーショナル、親近感たっぷりに体現。

『サマーウォーズ』より ©スタジオ地図

「よろしくお願いしまぁぁぁすっ!!」と、鼻血を流しながら現実世界の崩壊を食い止めた瞬間、とてつもないカタルシスが押し寄せると同時に声優・神木隆之介の存在の大きさを感じた。