ポッドキャストや音声小説などのサービスを展開するシマラヤFM、ライドシェアのハロー、スポーツコンテンツアプリのKEEPなど、素直に政府の言うことを聞いた企業もあった一方で、政府のご指導を完全無視した企業もあった。その筆頭がディディだ。
「中国企業って、政府の指示には完全服従じゃなかったの?」
そう疑問を持つ方も多いだろう。建て前では民間企業は政府に絶対服従なのだが、実際のところはぎりぎりのせめぎ合いを続けているというのが実態だろう。ディディは特に攻めっ気の強い企業だ。ウーバーもそうだが、既存の法律を守っていては、いつまで経ってもライドシェアなど展開できるはずもない。法的に見ればグレーゾーンであっても、まずはサービスを展開し、その有用性を認めさせることで、法律のほうを変えていく。こうしてディディは発展してきた。
こういったやんちゃに対し、中国共産党は基本的に寛容な態度を示してきた。「厳しい規制でイノベーションの芽を摘んではならない」とは李克強首相の言葉だが、民間企業のやんちゃを許容、追認することで、デジタル大国・中国の発展につなげてきたという成功体験から出た言葉ではないか。
「野蛮な成長」の時代が転換しつつある
というわけで、ディディは今回の上場も最終的には許してもらえると高をくくって決行したとみられるが、予想外の激怒を呼び起こしてしまった。
というのも、これまでは「やんちゃであろうが経済成長をもたらしてくれる企業をがんがん育てたい」という方針の優先順位が高かったのだが、今は「米国にデータを漏らしてはならない」といった政治の優先順位が上がっている。さらには昨年のアリババグループに対する取り締まりから続く「民間企業をきっちり管理しなければならない」という、中国共産党内のムードも追い風となっている。
「ステージが変わった」
筆者が話を聞いた中国の企業家らは、異口同音に話している。経済成長に貢献していれば、イノベーションを生み出していれば、だいたいはお目こぼししてもらえる。このゆるさが生み出した「野蛮な成長」の時代が転換しつつあるのだ。
◆
この時代の転換点、その発端は意外なものだった。ある男女の痴情のもつれ、それが波紋を広げ、多くを巻き込み、国家経済を動かす波となっていった。この震源と影響の拡大については「文藝春秋」2021年8月号および「文藝春秋 電子版」掲載の記事「アリババを襲った不倫スキャンダル」で詳述した。ご興味を持たれた方はぜひ一読していただきたい。