たった30分の作品が今年のアカデミー賞で大きな話題を集めた。短編実写映画賞を受賞した『隔たる世界の2人』(ネットフリックスで配信中)。サクッと見られるが、内容は重厚でズーンと胸に迫ってくる。
ベッドで目を覚ます黒人男性のカーター。横には一夜を共にした女性の姿が。しかし、自宅で待つ愛犬が気になる彼は、そそくさと部屋を後にする。マンションを出てふとタバコを咥(くわ)えると、背後から白人警官に声をかけられる。
「タバコか? 違う臭いだ」
大麻を疑われ、所持品を検査しようとする警官と揉み合いに。応援の警官も駆けつけ、カーターは白人警官に頸動脈をきつく絞められる。
「苦しい! 息ができない」
この台詞に思わず息を呑む。昨年、白人警官に頸部を圧迫され死亡した黒人男性、ジョージ・フロイド氏の言葉だ。劇中の白人警官は尚も首を絞め続ける。ふと目をやるとカーターはすでに絶命していた。
その刹那、ハッと目を覚ますカーター。首も異常はない。ベッドの横には、一夜を共にした女性の姿がある。
「ただの悪い夢だ」
だが、その後の会話や出来事も夢と全く同じ。マンションを出ると再び白人警官から声をかけられ、揉み合いになり、今度は射殺されてしまう。
再び目を覚ますカーター。横には一夜を共にした女性が。
そう、この物語は所謂(いわゆる)“ループもの”。ただし、そこにはブラック・ライブズ・マター運動の影響が色濃く反映されている。黒人男性のカーターは無限ループから抜け出すため、ありとあらゆる手立てを尽くす。しかし、ことごとく白人警官に殺されてしまう。窒息死、射殺、自宅に踏み込まれての銃撃……。彼が経験する“死”は、実際に白人警官によって殺された黒人の死をなぞっているのだ。
ループものは同じ役者やセットで撮影でき、低予算で制作できる。アイデアとテーマがはまれば、短編でもとてつもない名作が生まれるのだ。
INFORMATION
『隔たる世界の2人』
https://www.netflix.com/jp/title/81447229