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「逃げてっちゃいました。構ってほしくなさそうです」。彼女が逃げたのは恐らく、私自身が今まさに「他者」に抱いている警戒心のあらわれだったのだと思う。「これ以上は無駄なので、もうやめてほしい」と訴えかけるような私の発言を察して、心理士は「ではこうしましょう」とアプローチの変更を試みた。

「では大人になった吉川さんではなく、当時の“優しかった”お母さんを登場させてみましょうか。お母さんから、小さな吉川さんに『どうして泣いているの』と聞いてもらいましょう」

母に小さな自分を抱きしめてもらう

 想像すると、体育座りで顔を伏せて泣いていた子どもの私は、母親の優しい呼びかけに反応してパッと顔を上げ、声をあげて泣き始めてしまった。「さらに泣き始めてしまいました」と伝えると、続けて「お母さんに、小さな吉川さんを抱きしめて『大丈夫だよ』と言ってもらいましょうか」と指示があった。ところが正直、そのイメージをするのにはかなりの抵抗感があった。

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 私の母親は、果たしてそんなことをしてくれるだろうか、というような、母親との不完全な愛着形成や、多少の嫌悪感に似た“何か”が邪魔をしている気がしたが、あえてその“何か”を無視して、空想の中で、母親に抱きしめてもらってみることにした。

「安心して、母親にしがみついて泣いてます」と言いながら、私は自分がたった今、現実でも、ぼろぼろと涙を流していることに気が付いた。多分、私は母親からもっと愛してもらいたかったのだと、幼いころの自分の気持ちを、このとき初めて知った。

©️iStock.com

 私が泣いているのを知ってか知らずか、心理士から「お母さんから『どこにもいかないよ、ずっと一緒にいるよ』と伝えてもらいましょうか」と提案があったので、それに従った。続けて「お母さんとこのあと、どうやって過ごしたいですか」と聞かれたため、「一緒に、なんでもいいから明るい内容のバラエティ番組か何かを観ながら、ゆっくりしたい」と答える。その様子をイメージして、一度現実に戻ってくるよう言われ、今自分が安全な場所にいることを確認するために、再びマインドフルネスを行なった。