ホークスの正捕手は、侍ジャパンの扇の要――。金メダル獲得に大きく貢献した甲斐拓也捕手だ。日本中に歓喜をもたらした東京五輪でもMVP級の活躍を見せ、その存在の大きさを改めて痛感した。プロ野球が再開し、ホークスは投手陣が好投しているが、やはりそこには甲斐捕手という頼もしすぎる女房役がいる。

 後半戦、その甲斐捕手を筆頭にホークスは4人の捕手登録選手が1軍ベンチ入りをしている。ベテランの高谷裕亮捕手、既にチームに欠かせない存在となった栗原陵矢捕手、そして投手以外全ポジション守れるユーティリティープレーヤーの谷川原健太捕手だ。また、4月に高谷捕手の左膝の状態が悪化した際には、2年目の海野隆司捕手が1軍昇格し、6月には九鬼隆平捕手が代わって1軍に昇格していた。経験値に違いはあれども、1軍の景色を知っている捕手が6人いるというのはチームにとって大きいことだし、次世代の正捕手争いが活発化しそうでワクワクする。

 育成選手を含め捕手登録選手が10名いるホークスでは、ネクスト甲斐のポジションを誰が掴むのか、非常に興味深いところである。栗原選手、谷川原選手のようにユーティリティー捕手がいる一方、九鬼捕手や海野捕手のように捕手として虎視眈々とその場所を狙っている選手も当然いる。

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飛躍のシーズンを送る育成3年目捕手

 打力を生かして他のポジションで台頭するのか、捕手として真っすぐチャンスを狙うのか……今のホークス捕手陣には二通りの攻め方があるように思う。

 と言っておきながら、打力を生かしつつも捕手として支配下登録を掴んで欲しい、メキメキと成長中の育成捕手がいる。3年目の渡邉陸捕手だ。エキシビションマッチにも育成で唯一招集され、1軍3打席で2本の安打を放ちアピールに成功した。

3年目の渡邉陸捕手 ©上杉あずさ

 渡邉捕手は熊本県出身。高校は鹿児島の強豪・神村学園に進学し、2018年育成ドラフト1位でホークスに入団した。ホークスの捕手には珍しく公称187cmの長身で、圧倒的スタイルの良さを誇る。捕手練習を見ていると、一人脚を畳むのが大変そうだなとついつい思ってしまうほどだ。

 昨季までのプロ2年間、渡邉捕手はずっと3軍でプレーしてきた。本人も振り返っていたが、育成だし、高卒だし、先輩もたくさんいるし……どこか3軍でプレーするのが当たり前だという認識になってしまっていた。甘んじていたわけではないと思うのだが、そう思わざるを得ないくらい、ホークスというチームは2軍でさえもポジションを掴むのは簡単ではないのだ。

 でも、今年、渡邉捕手はその殻を破った。貰ったチャンスを逃すことなく、自らその扉をこじ開けてきたのだ。育成選手は1試合5人までしか出場できない2軍公式戦に今季ここまで45試合出場中。打率は3割を超えた。規定打席にはあと少し足りていないが、隠れ首位打者にもなりうる位置まで来ている。成長中の打力も生かして、捕手以外のポジションで出場することもあるのだが、育成選手ながら4番を任されるなど首脳陣からの期待の高さも窺える。

 飛躍のシーズンを送ることになったキッカケは、今年3月の教育リーグだろう。非公式戦ながら2軍戦“初出場”の機会を得た渡邉捕手は、ここで本塁打を放った。逆方向に勝ち越しとなる強烈な一発だった。ダイヤモンドを一周しながら浮かべた初々しい笑顔。この本塁打を契機に、3月19日ウエスタン・リーグ開幕戦で9回の守備からマスクを被り、正式に2軍公式戦デビューを果たした。そしてその裏、迎えたプロ初打席。9回二死二塁の場面で見事、適時安打を放ったのだった。初打席で初安打初打点をマークする勝負強さに今シーズンにかける思いと飛躍の予感が漂っていた。

 その頃、渡邉捕手に打撃で結果が出だした要因を取材した。打撃フォームや意識など、何かを変えたのかなと思って話を聞いてみたのだが、「1年目から吉本亮(3軍打撃)コーチに言われてきたことが、ようやくできるようになってきたのかなと思います」と照れながら話してくれた。コツコツ続けてきたことが花開いたのかと目頭が熱くなった。でも、きっとそれだけではないはずだと思い、話を聞いていくと……大きく変わっていたのは“気持ち”だった。