NISA、iDeCo、ふるさと納税……。近年、お金の話題はますます身近になりつつある。そんな今、現代人の金にまつわる葛藤を描く、羽田圭介さんの注目の新作小説が『Phantom』だ。生活を切り詰めて将来のために投資をする主人公・華美。一方、恋人の直幸は「使わないお金は死んでいる」と彼女を笑い、オンラインサロンの活動にのめりこんでいく。芥川賞受賞から6年、羽田さんがたどり着いたお金にまつわる意外な結論とは――?
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専業作家になってお金に不安が出てきた
——『Phantom』執筆のきっかけを教えてください。
僕は高校時代に小説家としてデビューして、会社員を1年半だけやってたんですね。その後中古マンションを買うと同時に専業作家になったんですが、しばらくしてお金の不安が出てきました。年収が300万円くらいの年もあれば、500万円くらいの年もあって、結構振れ幅が大きかったんです。
さらに追い討ちをかけるように、家の近所の書店で小説の棚が次第に減っていくのを目の当たりにして。小説の読者が減ることはあっても、増えることはないだろうってますます不安になった。
そこで確定拠出年金を始めたんですよ。自由に使えるお金があまりなかったくせに、自営業者の満額6万8000円を掛けていました。その頃はカレー50人前作ったりという自炊等で家計も切り詰め、ちょっとした遊びの誘いもいくらかかるか計算して、行くべきかどうか吟味していました。
半年で米国株にまで手を出した
やがてもっとお金を増やしたくなって、投資信託を買いはじめました。さらに、より手数料が低くて自分の好きな額で売買できるETFを買うようになって。
日本の個別株にも手を出しました。45万円くらいが最低単元のバイオ株を買ったんですが、5000円くらいの値下がりにもビクビクしてしまった。恐ろしくなって、買った翌々日くらいに数百円プラスになったところで慌てて利益確定売りしましたね。
その後すぐ米国高配当株に移行。確定拠出年金を始めてから米国株を買うようになるまでは半年以内。お金がないからこそ株を買って、将来に期待していました。
芥川賞のあと放置していた小説が……
投資を始めたのが2013~14年くらいで、2014年の年末に『Phantom』を書き始めました。でも2015年の7月で頓挫して。芥川賞をとって忙しくなったし、株で少しずつ稼いでいる人の気持ちを真剣に考えられなくなってしまったんですね。その後はずっと放置して『成功者K』や『ポルシェ太郎』など、アッパーな感じの小説を書いていたんです。