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 でも去年コロナ禍で外での仕事が一時期より減って、「滅私」というミニマリスト小説(「新潮」2020年9月号掲載)も書き終わった。そこで書きかけの『Phantom』を読み直してみたら、これはむしろ今の自分にあっていると思ったんです。お金がなかったころの自分と、ある程度投資をしてお金への幻想がなくなった今の自分が、意外なことに近かった。お金で幸せを享受できるという考えが、どこか他人事であるという点において。

みんなが投資に興味を持ち始めた

 また、去年の時点では投資を始めて7年くらいでしたが、すでに熱は冷めてきていました。一方で、周りが逆行するように投資に興味を持ち出したんです。彼ら彼女らにどうして投資を始めたのか聞くと、漠然と不安だからとか、お金が貯まったらFIRE(Financial Independence, Retire Early:経済的に自立して早期退職すること)して豪遊するんだとか言うんです。仕事での移動中、中毒のように頻繁に株価チェックをしているスタッフさんもいたりして。僕が投資を始めた頃は、そもそも誰も投資なんかしていなかったのに。

 それで、これはちょうど今書くべき小説だと思うに至りました。お金に幻想を持って、増やしたがる人がかなりいる一方で、お金を介さないで人と繋がっていれば幸せだっていう勢力も目立っていますよね。この二者を書けば、相対的な視点をもったいいものが書けるのではないかなって。

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女性は人生をフェーズで考える

——『Phantom』は羽田さん初の女性主人公の長編小説でもあります。

 僕自身そうなんですが、男性って時間の流れに気づきにくいと思うんですよ。時間に対する意識が甘いというか、焦りがあまりない。10代や20代の楽しかった思いや欲望、友情関係がずっと続くと思いがちな気がするんですね。

 でも周りを見ていると、女性は人生をフェーズで捉えている人が多い気がして。今年まではたくさん遊んだから、来年からはおとなしく生きようかな、とか。それがたとえ表面上の変化だけだとしても、なんでそんなに思い切りがいいんだろうって昔から不思議だったんですが、身体の違いからして男性とは時間感覚が違うのかなって思うようになったんです。女性には、出産をしたい場合に下さなきゃいけない決断が多いらしくて、もし出産をしたいと考えたら人生を逆算していかなければいけないからなのかなと。

 株って、短期で儲けられる才能を持った人なんてあまりいないので、普通は長期で確実に儲けることになるんです。すると、儲けるほど時間が経って、自分の死も近づいてくる。金持ちになる頃には歳とって健康状態も悪くなってて、遊んでくれる相手がいるかもわからない。この葛藤により気づけるのは女性ではないかと思いました。