オンラインサロンへの「予感」が気になる
——華美が着実にお金を増やす一方、恋人の直幸はオンラインサロンの活動にのめりこんでいきます。
オンラインサロンってほとんどが予感ビジネスですよね。入ったらスキルが上がるとか、何者かになれるんじゃないかって予感があるから入会する。何をそんなに期待しているのだろうとは、思うんですが、入っている人の話を聞くことも多くて、この小説に取り入れました。
ただ予感ビジネスとはいっても、貨幣経済社会におけるブランド品だって同じですよね。やれ質やデザインが良いと言ったりしても、それを買えばアゲアゲな自分になれるかもしれないという予感に導かれて、買うわけじゃないですか。だからオンラインサロンは、旧来あるものが形を変えているだけともいえる。
大金って要らないんじゃないか
——ちなみに、羽田さんが投資に冷めたきっかけはあったのでしょうか。
7年の間に、信用取引とかCFDで合計3000万円くらい失ったことがあったんです。一方スイングトレードで、数日間で200万円儲けたこともありました。初心者の頃にはこれが最適だと思っていた米国高配当株投資も、実は目先の配当に釣られただけの非効率的なダサい投資だと気づいて、もっと安定して儲けられる投資に切り替えたんです。でも、安定した投資に行きつくと、投資ってもうやることがないんですよ。
さらに、資産の使い道もわからなくなったんですね。僕は「週刊プレイボーイ」で「作家・羽田圭介 資産運用で5億円の豪邸を買う。」という連載をしていました。快適な執筆空間が欲しい、それはRC地下1階・地上2階建、立地は東京都心。その費用を実労働で稼ごうとしたら50代半ばくらいになってしまうので、投資を頑張って若いうちに豪邸を手に入れようと。
でもその連載原稿を、賃貸マンションで集中して書けているわけです。じゃあ豪邸なんていらないんじゃないか、これまで通り都内の賃貸マンションに住めばいいんじゃないかって気づいたら、大金を何に使うんだろうと。豪邸を買いたい、際限なく水商売の店で使いたい、子供数人をアメリカの私立大学に進学させたいみたいな欲望がない限り、お金ってあまり使わないと思うんです。
通勤がなければ幸せになれるのか?
投資に興味を持ち始めた人たちが最近、僕に色々話してくれるようになりました。「週刊プレイボーイ」連載のイメージもあるし、周りに話せる人もいないみたいで。でも、かつての自分と同じように、将来のことをひどく具体的にイメージして、なぜお金が必要かを明確に考えている人って、全然いないんですよ。漠然とした不安があったり、会社をやめて暇になれば幸せになれそう、くらいで想像が止まってる。