文春オンライン

「家族がいなかったら、自分でご飯を作ることはなかったと思うんです」 おかざき真里が「かしましめし」で描いた“楽しく食べる”幸福

おかざき真里さんインタビュー#1

2021/07/30
note

漫画を描くということが、大きな生きるエンジン

──主人公・千春が、「独りでいると栄養のあるものやバランスのとれたものを食べるのは違う気がして、コンビニでジャンクフードを買う」と英治に話すシーンがありました。(第1巻6話)

おかざき 正直、家族がいなかったら私は漫画も描いていないと思います。私にとって、漫画を描くのは最高の「息抜き」なんです。会社員をしながら漫画を描いていたのも、私にとっては受験勉強の最中に気分転換で漫画を描いているようなもので、ある種の現実逃避だったんですよね。

 若いときは「生活なんてカッコ悪い」と思っている部分もあったんですけど、今は毎日ご飯を作る場があって、それを食べてくれる人がいるということが、そしてそこからの逃避として漫画を描くということが、私にとって大きな生きるエンジンになっていると思っています。

ADVERTISEMENT

©おかざき真里/祥伝社フィールコミックス

──高級フレンチじゃなくても、一緒に楽しく食べる相手がいることが大事だと。

おかざき 場合によると思うんですよ。代理店時代、1回だけ高級なお店で接待を受けたことがあるんですけど、当時それもまた仕事という局面だったのですが、味が全然わかりませんでした。昔の人間なので「出されたものは残さず食べないといけない」という思い込みがあるので、「おいしいけどおいしくない」みたいな食事とその時間がとてもつらくて。これは食べ物にも失礼だし、自分にもよろしくないと思って、以来個人では接待は受けないようにしていました。

人生最高の食事は「麻雀メシ」

──これまでの人生最高の食事って、どんなものか教えていただけますか。

おかざき いま日々子どもたちと食べるご飯も「最高ご飯」のひとつですが、代理店時代にいちばんおいしかったご飯は、なんといっても「麻雀メシ」です。毎回先々の予定が立てにくいプロジェクトに関わっていたので、大きな仕事が終わった後でメンバーを4人集めて麻雀に行くのが唯一の楽しみだった時期がありました。ひと仕事終えたあと、麻雀をしながら深夜に食べるラーメンやおにぎりとかがすごくおいしくて。遊びながら食べるとか、仕事の帰りに食べるとか、あの時食いつないでいたから、いま、命がつながっているなあと思うこともあります。栄養やグルメとはむしろ正反対ですが、そういう時間と食事が「生き返る」原点だったなと思います。

関連記事