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《混合ダブルス金メダル》「もはや中国選手ですらも手がつけられないレベルに…」世界卓球・解説者が語る伊藤美誠の知られざる素顔

『世界卓球解説者が教える卓球観戦の極意』より#2

2021/07/31

卓球界でナンバーワンの集中力を持つ平野選手

 彼女の集中力は凄まじいものがある。あれほど集中力の高い選手というのは、私はこれまでに見たことがない。男女合わせても卓球界でナンバーワンではないだろうか。

 ただ、ここぞというときの集中力のMAX値はすごいのだが、それはなかなか長くは続かない。なので、そのMAXのときと、沈んだときの差は激しい。

 調子の波があって、波の高いところはとてつもなく強い選手、逆に低いところは弱い選手、といえる。この波というのは年を取るにつれてその差が小さくなっていくものなのだが、これが平野選手の課題だろう。

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 自分の波の頂点を常に世界選手権やオリンピックといった大舞台に合わせられるように、自分自身でコントロールができるようになると中国にとってもさらに恐しい存在になるだろう。

伊藤美誠(右シェーク 裏・表 前陣速攻型)

 伊藤選手は私たちの誰もが経験したことがないくらいの強靭なメンタルを持っている選手。本当に心臓に毛が生えているかのような選手だ。

 プレースタイル的には福原愛さんと同じ、バック面に変化のある表ソフトラバーを張った前陣速攻の異質型だ。基本的にはバックハンドは弾くような打法で、回転のないナックルボールで攻め立てる。そしてフォア面は裏ソフトラバーを使い、回転のかかったドライブを送り込む。

伊藤美誠選手 ©文藝春秋

 ここまでは普通なのだが、彼女がすごいのはフォアハンドでドライブだけでなくスマッシュが打てるということだ。

 相手にしてみたら、「ドライブを待つ」ことと「スマッシュを待つ」ことは全く違う対応になるのだが、そのどちらが来るか分からないというのは、非常に脅威だ。しかも、スマッシュはドライブと違って直線的な軌道を描くので、安定感に欠けるのだが、伊藤選手のスマッシュはかなり安定している。

 このように、たくさんの技があり、なおかつ安定して入るという、もはや中国選手ですらも手がつけられないレベルに達しつつある。

 彼女は朗らかで何にも物怖じしないので、誰もやっていないような色々な技を覚え、その覚えた技を躊躇もしないで試合で出せるという、性格そのものが強いのだ。その彼女の強い性格が技術も支えている、というように思う。

 中国のトッププレイヤーを相手にしても全くビビることもなく、何とも思っていない。淡々と自分のいつも通りのプレーをしてやっつける、精神的に優位に立つことのできる唯一の選手だろう。