「駅」を目的地とした旅の楽しみ
知らない街へと繋がるレール、どこかへと続く冒険の始まり、ひとつの線路が多方面に分岐し、そしてまた1ヶ所に合流する。旅を象徴する駅にはロマンがあり、駅そのものにも魅力がある。日本の鉄道と軌道の駅は、現在およそ9900あり、歴史を感じる木造の駅舎、周りに何もない秘境駅、ホームから望める絶景、駅そのものが風変わりなデザインなど、その特徴は多種多様だ。それだけに、駅は電車に乗り降りするために利用されるだけでなく、駅を目的地として訪れる人も多い。私もそのうちのひとりだ。
瀬戸内海を一望できる日本一海に近い「下灘駅」、待合室の壁一面に訪問客の跡が残る「北浜駅」、冬になるとカモメがホームを占拠する「浜名湖佐久米駅」、富山地方鉄道の木造駅舎はどれも開業当時のものであり、その佇まいにひき込まれいくつも巡ったほどだ。
旅の目的地を探すため、いつものように本屋へ立ち寄ると、旅コーナーへと足が向く。
旅行雑誌では秘境駅特集をしていた。周りに民家も道路も何もない駅、谷に架かる橋の上につくられた駅、断崖絶壁にへばりつく駅。
一風変わった「秘境駅」
パラパラとめくるうち、ひとつのページが目に留まった。
「日本一のモグラ駅 土合駅」
そこには、薄暗いトンネルに作られたホームと、距離が長すぎて先が見えない階段が写っている。
廃墟のような寂しい雰囲気と、見たことのない異空間に強く惹かれた。
「ホームまで486段、片道10分かかる駅」
そんな駅があるのか、実際に行って見てみたい。私は群馬旅行の行程に、土合駅を組み込んだ。
新幹線に乗り高崎駅に降り立つと、駅前でレンタカーを借りる。群馬は高崎を中心に放射線状に観光地が点在する。群馬は私の大好きな、一風変わった観光地の宝庫だ。ジャパンスネークセンター、三日月村、藪塚石切場跡、夜は伊香保温泉に泊まりながら、伊香保銀映(2020年閉館)、珍宝館、命と性のミュージアムといった、私好みの熱のこもったスポットを巡る。ロックハート城やプラムの国に立ち寄り、たまにはひもかわうどん、おっきりこみと、ご当地グルメも食べておきたい。
利根川に沿って続く曲がりくねった国道を北へ進むとだんだん山深くなり、周りにはスキー場や温泉の案内が増えてきた。いよいよ目的地に近づくと、川の流れがますます激しくなり、民家も店も何もない山道へと変化する。こんな山奥にある駅、一体誰が利用するのだろうか。