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「お疲れさまでした」「がんばって下さい」

 もはや雰囲気や景色を楽しんでいる余裕はない。もうどうだっていい。とにかく早く、この階段を上りきりたい。ただそれだけだ。休憩がしたい。トイレに行きたい。背中を押す涼しい風だけが唯一の救いだ。

階段の左側にエスカレーターを作ろうとしたスペースがある。利用客が少ないため、いまだにエスカレーターは設置されていない

 ようやく頂上まで上りきると、次はもと来た渡り廊下が待ち受ける。行きには気づかなかったが、扉には「お疲れさまでした。(階段数462段)改札出口まで後143メートル、階段2ヶ所で24段です。がんばって下さい。」と、土合駅から励ましのメッセージが書かれていた。そのあとも「改札口はここから17メートル」とゴールを予感させ、なんとか足を踏み出しラストスパート。残りわずかとはいえもう足はクタクタだ。そしてついに改札までたどり着くと、感慨に耽る暇もなく、トイレへと駆け込んだ。

土合駅連絡通路
利用者への心づかいが垣間見える看板

 久しぶりの地上はかなり眩しい。外はものすごく暑かったことも、セミがやかましく鳴いていることも、のどが渇いていたこともすっかり忘れていた。あれだけ疲れ果て、もう二りたくない階段だったはずだが、駅舎を出るころにはなんとなく、後ろ髪を引かれる思いだ。

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連絡通路からの眺め

 山深い自然の中にある無人駅から一歩中に入ると、無機質なコンクリートの地下空間が広がっているなんて、外から見ただけではまったくわからないだろう。この駅を利用しない限り、雑誌で見かけなければ、駅の存在自体知らないままだっただろう。もしかしたら異空間は、案外身近にあるのかもしれない。この世には私たちが知らないだけで、心が揺さぶられる場所はまだまだありそうだ。

写真=あさみん