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《まるで異世界》なんでこんなに地下深くに!? 群馬県の山中に“ポツン”…幻想的すぎる「日本一のモグラ駅」を探索する

2021/07/31

genre : ライフ, , 社会

本当にここへ電車が来るの?

 ホームは天井が高く、広々としており、巨大なトンネルの中に作られていることがわかる。外が猛暑だったことを忘れるくらい、涼しい風が吹き抜け気持ちがいい。今までの不安と緊張が少しだけほぐれた。線路のそばまで出ていくと、ホームの先は暗闇へと続いている。本当にここへ電車が来るのだろうか。にわかには信じがたい。

土合駅ホーム
土合駅ホーム

 ♪チロリロリー

 しばらくすると遠くの方で、かすかに音楽が聞こえてきた。1日にわずか6本しか書かれていない時刻表を見ると、偶然にももうすぐ電車が来る時間だ。ホームの先へ行ってみると、真っ暗なトンネルの奥に光が見えた。光は段々と大きくなり、近づいてくるようだ。

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 余談だが、電車と電車の到着間隔は最短でも1時間強。先ほど登山客とすれ違ったが、あの人たちは階段を上ってくるのに、なぜそれほどまでの時間をかけていたのだろうか。物珍しい「モグラ駅」を堪能していたのか。それとも階段の上りが余りにもキツいのか……。

トンネルの奥からヘッドライトが近づいてくる

 トンネルの向こうから見える光の正体はわかっているが、光が大きくなるにつれ恐怖が増す。身構え待ち受けていると、風切り音、そしてレールから響く金属音が相まって轟音を響かせながら、真っ暗なトンネルの中から眩しい光とともに白い電車が姿を現した。

電車がホームに姿を現した

 扉が開き数人の乗客を降ろすと、程なくして電車は去っていった。そしてまた私は、ひとりになる。

息が切れ、膝が笑い、悶え苦しむ上り階段

 さて、それでは来た道を戻ることにしよう。果たしてこの長い階段を上りきれるのだろうか。下りてきた時点では全然疲労感はなく、むしろ余裕だった。それほど急な階段でもなく、一段一段が低く作られている。きっと上りも大したことないだろう。そう自分に言い聞かせた。

日本一のモグラ駅であることを示す看板が立てられていた

 階段にはところどころ段数が書いてある。上り始めは当然余裕だ。しかし100段を越えたあたりから、次第に鼓動が激しくなる。途中、踊り場に休憩用のベンチが用意され、あと半分の段数を知らせるメッセージだけが私を励ましてくれる。200段で息が切れ、300段で膝が笑う。400段で悶え苦しんだ。