日常で使う様々な言い回し。話していて、書いていて、ふとした瞬間に「あれ、これで言い方あっていたっけ……?」と疑念がよぎることはないだろうか。
そんな日常で直面する「微妙におかしな日本語」について、『日本国語大辞典』の元編集長で、辞書一筋37年の神永曉氏が解説した『微妙におかしな日本語――ことばの結びつきの正解・不正解』より、一部を抜粋して引用する。
◆◆◆
恨む気持ちを解消させること、特に自分に対してひどい仕打ちをした人に仕返しをしてその恨みをなくすことを「恨みを晴らす」と言う。「長年の恨みを晴らす」などと使う。ところがこれを「恨みを果たす」と言う人がいる。
国立国語研究所のコーパスでも「恨みを果たす」は、書籍例を含めて3例見つかるが、「恨みを果たす」は誤用とされている言い方なのである。
※編集部注・コーパス:新聞、雑誌、本などに書かれている言葉を集めたデータベース
確かに「はらす」と「はたす」とでは、音が似ていなくもないし、類義語ではないが語義に関しても、ともに「目的を遂げる」という意味を持つように、やや重なっている部分がある。「恨み」に後接する「晴らす」の意味は「解消する」である。ところが、「果たす」には「解消する」の語義はない。このことからも「恨みを果たす」は誤用と言い切ってよいと思う。『日本国語大辞典』によれば、「恨みを晴らす」という言い方は、日本イエズス会がキリシタン宣教師の日本語修得のために編纂した『日葡辞書』(1603~04年)にも載せられており、かなり古くから定着していたことがわかる。