「おい、繋がらないぞ!」「聞いてなかったのか」
——本でも取り上げられていますが、かつては「スカイプで大臣と会議する」なんてありえなかったけれど、テレワークが浸透した現在では、オンライン会議についても寛容になってきたようですね。
酒井 経産省商務情報政策局の田辺雄史さんに聞いたところ、以前ならスカイプで会議していて、ちょっとでも繋がらなかったら、大臣に「おい、繋がらないぞ!」と怒られていただろうというのです。それが怖いから、大臣の空き時間を待ってでも、直接やり取りすることを優先していたのだと。それが今では、官公庁もオンライン会議に寛容になっている。
数カ月前なら「大臣、もう一度お願いします」なんて言った日には「聞いてなかったのか」と叱られただろう空気も一変し、今ではへたな民間企業よりも“オープンマインド”な人材ばかりが集まっているという印象です。
——“オープンマインド”ですか。
酒井 はい。私が経産省のベテランの方にオンライン取材したとき、担当編集者がパソコンの不調か何かで、ミーティングに参加できなかったことがありました。担当編集者は、もう取材させてもらえないんじゃないかと心配していたようですが、そのときも「じゃあ別のツールに切り替えましょう」といって、パッと経産省の方が朗らかに対応してくれました。デジタル環境へのアレルギーやイラつきを持っている人は少数派になっているといっていいのではないでしょうか。
収入印紙を貼る意味って何?
——逆に酒井さんが遅々として進まない官公庁DXへの愚痴を経産省の方に聞いてもらったとか。
酒井 そうなんです(笑)。私はフリーになって今年1月に会社を立ち上げ、法人化申請をする際に定款認証と設立登記で躓きました。法務局の申請だけで21カ所の捺印が必要だったんです!(デジタル・ガバメント実行計画の一端で今年2月にはオンライン化された) 収入印紙を貼る意味もわからなかった。その作業をした翌日が経産省のDX担当者への取材日だったので、つい愚痴ってしまいました。
——会社登記は経産省の管轄ではないですが、経産省のDX担当はなんと?
酒井 取材した2人はとても優しかったです。「DXレポート」を執筆した商務情報政策局の和泉憲明さんは行政のデジタル化にまつわる課題について、こう言っていました。
「政府の人間には、紙やハンコの手続きをそのまま電子化すればいいと思っている役人も相当数います。今どきのオンラインショッピングでは、入力した項目が正しいかどうかはその場でわかります。でも、今の役所のシステムはそうでないことがほとんどです。オンラインショッピングでそれだったら皆ぶち切れますよね。今後はますます、そういう“普通の感覚”が問われることになると思っています」