文春オンライン

2021/08/16

マイナンバーでラクになるはずが…

 結局、私は提出した定款に不備があり、法務局に呼び出されたのですが(笑)、和泉さんのような人が霞が関にいてくれることがどれほど心強いか。コロナの給付金も含めて、いい加減、日本が“申請国家”であることに嫌気が差している人は多いはずです。マイナンバーで住民票の取得がラクになったといいますが、本来なら住民票を出さなくてもいいようにするためのマイナンバーだったはずなのですから。

——住民基本台帳を紙で運用するのは止めよう、という議論は未だに政府を二分しているようです。

マイナンバーの運用はまだ途上段階 (マイナンバーカード総合サイトより)

酒井 これも先輩から受け継いだ政策を是とするばかりで、政策の検証が行われてこなかったパターンですね。経産省の田辺さんは「デジタルで政策を検証する仕組みがあれば、政策をよりよくしていくこともできる」と言っていました。

 例えば、企業に支払われる各種補助金がどう使われ、最終的にどのような成果を上げたのか、実は補助金を支払う役所側には把握する手段がほとんどない。「多くのECサイトやウェブサービスと同様に、ユーザーの動きを把握してトレースできれば、隠れた課題を明らかにし、次の政策で軌道修正できます」とも仰っていました。

——一方で、霞が関の中でもDXの速度にバラつきはあるのでしょうか。

酒井 あるでしょうね。経産省は民間企業とのつながりが強いのでDXに敏感です。中でも、動きが早い通信業界やIT業界を管轄する部門で働いている官僚の人たちは敏感な方が多く、ツールを使いこなしていたりとか、情報をよく収集している印象ですね。外務省は海外機関との連携が多いので、個別にリスク管理を行い、早くからクラウドを使い始めていました。金融庁も、Fintech、金融取引の高度化などこれまた動きの速い業界。監督している業界に応じて、官僚たちも変わっていっているんだと思います。

準備中のデジタル庁HPより。「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を。」のキャッチコピーのようなDXは実現するか

 逆に、文部科学省や農林水産省などの、あまり変化の激しくない業界と働く官僚の人たちは、前例踏襲型の方が多い、とは聞きます。やはり省庁によってグラデーションはあるのでしょう。

「霞が関曼荼羅を作れることが偉い」という空気

——9月に発足するデジタル庁は定員393人(新規増員160、他省庁からの振替233)のうち、100名超を民間から採用するとしています。官民のコラボレーションが成功する鍵はなんでしょうか。

酒井 民間からのスペシャリストを迎える側の官僚は、せっかく外の知見をたくさん持っている方が入ってくるので、「その人たちに思いっきり力を発揮してもらおう」、そして、「その人たちから徹底的に学び取ってやろう」というくらいの意識でいるのがいいと思います。「霞が関はこういうやり方だ」と染めようとしないで、伝統やルールから外れていたとしても、目をつぶって、新しい文化を取り入れてほしい。

「霞が関曼荼羅」って知ってます? 官公庁独特のパワポ1枚にめちゃくちゃ情報量の詰まったスライドのことで、色数も謎に多いスタイルの資料なんですけど、風土に染まってしまうと、「霞が関曼荼羅を作れることが偉い」という空気が蔓延してしまう。民間からデジタル庁に入っていく人は霞が関に染まらず、「霞が関曼荼羅を描きたい」とは思わないまま、自分のこれまでのスタイルを貫いてほしいです。

霞が関曼荼羅の一例(環境省資料より)

「出入り業者」のような民間への扱いも

——民間企業からの人材はお客さん扱い、というところもあるようですね。

酒井 はい。一番よくないケースですが、霞が関の官僚たちが外から民間の方を迎え入れるときに、社名で呼んだりすることがあるらしいんです。「A社」から来た人を「Aさん」と呼んでしまったり。

——出入り業者のような扱いですね。

酒井 ちゃんと名前で呼んで、一緒に働く仲間として同じ土俵に上がってやっていくしかないと思います。

 これは霞が関だけの話ではありません。企業も同じです。お互いを尊重して信頼感を持つ、「心理的安全性(職場で誰にどのような指摘をしても拒絶されず、罰せられる心配もない状態のこと)」が保証された環境作りが大切です。

——各省庁でDXが緒に就いたのは行政を利用する国民としては喜ばしいことですが、かたやデジタル庁も新設されるというのは、またバラバラのシステムが出来上がってしまうのでは? という気もします。

酒井真弓氏 ©文藝春秋

酒井 これは私見ですが、デジタル庁にいくらよい人材が集まったとしても、各省庁の中にDX人材がいなければ、結局デジタル庁と各省庁が受発注の関係になるだけで改革は見込めないと思います。例えば、金融庁のDX人材公募が報じられると、SNSでは「デジタル庁を新設するのに各省庁でも同様の人材を採用すべきか」という議論が散見されました。

 しかし本当は、各省庁からデジタル庁に出向し、デジタルに揉まれて戻っていくという流れを作ると同時に、各省庁もDX人材を採用・育成し続け、それぞれの領域でDXを進めていくというのが、あるべき姿なのだと考えます。(#2へつづく

ルポ 日本のDX最前線 (インターナショナル新書)

酒井 真弓

集英社インターナショナル

2021年6月7日 発売

その他の写真はこちらよりご覧ください。

この記事の写真(52枚)

+全表示

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文藝春秋をフォロー