同じ寮に住み、選手のプライベートも観察
一方中田ジャパンの駒不足は、誰の目にも明らかだった。近年、セルビア、中国、アメリカ、ブラジル、ロシアなどの強豪国は高さやパワーに加え、かつて日本がお家芸としてきたディフェンスや繋ぎ、コンビ攻撃などの精度を上げている。日本は現在世界ランキング6位。だが上位5か国の背中は遠く、その一方、オランダやイタリアがすぐ後ろに迫ってきている。強豪国のエースは身長190㎝台で、日本は180㎝そこそこ。チーム平均でも10㎝ほど低い。身長が高ければ空間の占有率は高く、バレー競技は日本人には不利にも思えるが、中田は、身長の話に触れると決まって語気を強める。
「身長の話は言い訳にしかならない。ハンディだなんて思いたくもないし、強豪国を日本の力でどう破るか、それだけの話です」
中田なら何かやってくれそうな気もしていた。そんな期待を持たせたのは、監督としての圧倒的な実績だった。2012年に久光製薬スプリングスの監督に就任するやいなや、しばらく優勝から遠ざかっていたチームにV・プレミアリーグ、皇后杯全日本選手権大会、黒鷲旗全日本男女選抜大会など国内の主要大会をすべて制覇させ、その後もほぼ毎年のように国内の大会を制し“久光王国”を作り上げた。
中田の指導の真骨頂は、選手それぞれの心の襞に分け入り、心臓外科医のような微細な目で観察し、ここぞという時に声をかけること。中田がまず久光で手掛けたのは、選手の意識改革だった。実力がありながら結果が出せないのは、技術以前に、アスリートとしての心構えに問題があると踏んだからである。何を考えバレーに取り組んでいるか、中田はそんな基本的なことから選手と徹底して対話を繰り返した。
選手と同じ寮に住み、選手のプライベート、生活態度を観察し、会話の糸口を掴んだ。中田もまた選手の前で素顔を曝(さら)け出す。部屋のドアは、誰もがいつでも訪ねられるように開放した。中田が言う。
「選手を育てるには個性、性格、癖まで見抜かないと。コートに入った時の顔とプライベートの顔は違う。その両方を理解しないと、その選手に適した指導はできません」