東京五輪初戦で世界ランク24位のケニアを下した女子バレー日本代表だが、その戦いの中でチームの中心選手・古賀紗理那(25)が負傷退場。古賀が欠場した続く第2戦のセルビア戦はストレート負け、強豪ブラジルにもストレート負けを喫した。1勝2敗となりA組4位に転落した背水の日本代表は、7月31日、因縁のライバル・韓国と1次リーグ突破をかけた大一番に挑む。
指揮を執るのは前回のリオ五輪終了後から代表監督を務める中田久美だ。「バレー界初の五輪女性監督」となった中田には五輪にかける並々ならぬ思いがあった――。ジャーナリストの吉井妙子氏が寄稿した「文藝春秋」2019年9月号の記事を転載する。(※日付、年齢、肩書きなどは当時のまま)
(全3回の第2回/第3回に続く)
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ふて腐れた全日本主将「反省メール」を敢えて無視した
中田は、全日本主将に五輪の出場経験がない岩坂名奈を抜擢した。少し頑固だがおっとりしている岩坂は中高、久光でも主将を経験したことがない。プレー面でもスタメンになれるかどうか瀬戸際の選手だった。
この起用には誰もが驚いた。一番びっくりしたのは岩坂本人だった。
「絶対に無理、と何度もお断りしたのに、是非と。尊敬する久美さんを余り困らせたくなかったので、力不足と思いながら引き受けました」
だが、真面目な岩坂は理想のキャプテン像に縛られ1人で何でもこなそうとしてパンク寸前になった。自分のプレーも疎かになり、18年秋の世界選手権ではスタメンから外れた。岩坂は悔しさと情けなさを大会終了後、中田にぶつけた。ふて腐れた態度を取ったのだ。岩坂は全日本が解散してすぐ反省のメールを中田に送った。だが中田は敢えて無視。
「今、岩坂は凄く悩んでいると思う。トコトン悩むことが成長のエンジンになり、彼女をまた一段、引き上げてくれると思う」
メールの返事を出さない代わりに、中田はVリーグ期間中に岩坂を訪ね、何も言わず1冊の本を渡した。岩坂が振り返る。
「その本には“素直に勝る成功材料なし”というようなことが書いてあった。私に足りないのはそこだった。仲間たちには『困ったことがあったら遠慮なく言って』と声をかけてもらっていたのに、甘えられなかった。今回久美さんに、人を動かしてなんぼ、ということを教わった気がします」
中田が、キャプテン像から程遠い岩坂を抜擢したのには訳がある。