「心が折れそうになっていた時、久美さんに呼ばれたんです。色々話しているうちに視界がクリアになり、なんか体の底からふつふつと湧き上がってくるものがあった。久美さんは凄い人なのに、私の目線で話してくれる。だから久美さんの顔を見ないと、なんか自信が持てなくて」
中田の選手指導のきめ細やかさは、日本バレーボール協会女子強化委員長の寺廻太(てらまわりふとし)も舌を巻いた。90年代後半に全日本男子監督だった寺廻はその後、女子チームのJTマーヴェラス、PFUブルーキャッツの監督を務めた。
「Vリーグで中田率いる久光に勝てなかった理由が、彼女の指導ぶりを目の当たりにしてやっとわかった。あの緻密さは、女性だからというものではなく、艱難辛苦を舐めつくしてきた中田だから可能なこと」
そしてこうも言った。
「かつて中田は好き嫌いが顕著だった。苦手な人がいると食事の席でも中座するほど。でも今は、彼女の中から好きや嫌いという感情が完全に消えていると思う。“私”がない」
あまりの激やせに「病気説」も
その一方、チームや選手に全力投球するあまり、中田の体は徐々に細くなった。176cmで62kgあった体重が今は54kg。新鍋は「全日本シーズンが始まると、久美さんは目に見えて細くなっていく。私たちが身を削っているのかと思うと切なくて……」
あまりの激やせぶりに、一時病気説が流れたこともある。中田は大笑いしながら否定する。
「私はバリバリ元気。ただ練習後、ビデオのチェック、データ分析、スタッフとの打ち合わせなどをしてるとご飯を食べる時間がないんです。夕方になると噛むのも面倒になって来るし……。監督になってから確実に、睡眠欲と食欲は減りましたね」