1ページ目から読む
2/3ページ目

 作品を鑑賞して感じたのは、「歌姫」の説得力を出すために中村さん、力のあるアーティストの起用が必須だったことです。本職だけに迫力満点で、オペラ的な演出も生きていました。

 ベルが仮想世界を魅了する歌姫であることにわずかでも疑念や違和感を持たれたら、この作品は成り立ちません。アニメの中には歌パートをアーティスト、キャラクターの声を声優が担当するキャスティングもあるわけですが、やれるものなら一人でやる方がより自然です。その意味で、中村さんの起用は、「正しい」判断だったと思います。

「竜とそばかすの姫」の初日舞台あいさつに出席した左から玉城ティナ、染谷将太、佐藤健、中村佳穂、成田凌、幾田りら

宮崎駿が漏らした「存在感のなさ」への不満

 こうした専門職以外の声優を積極的に起用する流れは、ライト層も意識したオリジナルの大作アニメ映画では「当たり前」になってきつつあります。木村拓哉さんと倍賞千恵子さんの「ハウルの動く城」などジブリ映画は有名ですが、俳優の醍醐虎汰朗さんが主人公、森七菜さんがヒロインの声を担当した「天気の子」もそうです。

ADVERTISEMENT

「ジブリの教科書 となりのトトロ」(文藝春秋)には、コピーライターの糸井重里さんと宮崎駿さんの対談があります。

宮崎 映画は実際時間のないところで作りますから、声優さんの器用さに頼っているんです。でもやっぱり、どこか欲求不満みたいになるときがある。存在感のなさみたいなところにね。特に女の子の声なんかみたいな「わたし、かわいいでしょ」みたいな声を出すでしょ。あれがたまらんのですよ。何とかしたいといつも思っている。 

表現者としての総合力が求められる時代へ

「アニメは声優に任せるべき」という声は理解できます。実際、宮崎さんのこの言葉を受けた糸井さんが「逆にぼくらはアニメってああじゃないといけないのかなっていうふうに思っていたんですよね」と答えつつ、ある程度過剰な演技でないと視聴者にうまく伝わらない……と指摘しています。微妙なバランスをとるのがその道のプロです。「専門の声優に」という声は、当然の意見であるともいえるでしょう。