京都・蓮久寺の三木大雲住職のもとには、助けを求める人が絶えない。ポルターガイストに悩まされている、人形をお祓いしてほしい、さまよう霊を供養成仏させてほしい……。

 そんな実話や自身の体験など、現代の怪談、奇譚の数々を収めた「怪談和尚の京都怪奇譚 幽冥の門篇」(文春文庫)が刊行された。

 怪談を切り口にわかりやすく説法を説く「怪談説法」で一躍有名となった三木住職。なぜ“怪談和尚”と呼ばれるようになったのか、その半生について話を聞いた(全3回の2回目。最初を読む)

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三木大雲住職 ©文藝春秋(撮影・宮崎慎之輔)

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近所の社長さんに缶コーヒーを勧められたが…

――ご自身が体験した不思議なお話はありますか?

三木 (大学時代に)埼玉の熊谷で2年ほど修行をしていまして。日蓮宗の場合、4年間寮に入って修行をするのですが、毎日、朝起きたら水をかぶるんです。それに、1年生の時は先輩がおられるので、(先輩の)水をかぶる分の用意も全部しなくちゃいけなかったんです。当番にあたると朝4時半とかに起きなくちゃいけないんですよ。

 水をかぶって掃除と読経をして、洗い物をして、食事を作ったりもしていて。大学にも通って、大学の授業が終わると今度は夜のおつとめがあって、その後はだいたい22時45分まで夜の課業というのがあるんです。法要の勉強だったり、書道などをして寝るという生活がずっと続きますので、結構ストレスになるんですね。なかには円形脱毛症ができる人がいたり。

 そんななかで唯一私が安らげるのが、近くにあったアラスカン・マラミュートという犬を飼っていたところで。そこへ行ってワンちゃんを触らせてもらって、ストレス解消になったなと思ったら寮に戻っていたんです。

アラスカン・マラミュート ©iStock.com

 あるとき、使い捨てカメラを持ってそのワンちゃんを撮っていたんですね。そうすると、「何勝手に撮ってるんだ!」って怒られまして。「誰ですか?」って聞いたら、そこの社長さんで。「すみません、勝手に撮ったらあかんってわかりませんでした。カメラこのままお渡ししますので、これで許してください」と言ったら、「あれ? お前さっきから関西弁で喋ってんの?」と言われて、「そうです」と。

 その社長さんも「実は俺も関西出身やねん。ちょっとコーヒーでも飲んでいけよ」と言われて。丸太小屋みたいなところに事務所があるんですけど、そこに入って「お前、関西のどこや?」と聞かれて「京都なんです」と言うと、「俺も京都やねん」と。「京都のどこですか?」と聞くと、「“カラスマル”のところ」って言うから、「ん? “カラスマル”ってどこですか?」って聞いたら、「“カラスマル”お前知らんのか?」って言われて。「ごめんなさい、“烏丸(カラスマ)”のことですか?」って聞いたら「そうそうそう」みたいな話になったんですよ。「烏丸近辺にお住まいなんですね、へぇ」っていう話をして。