1ページ目から読む
3/3ページ目

 犯人に話を聞くと、「俺もっと殺してんねん。殺すには条件がいくつかあって、お金がらみの殺人じゃないとか、完全にこの世から消してしまうとか。最後に運の悪い奴を俺は殺すっていうふうに決めていた。でも1人だけもしかしたら神や仏に守られてるような奴がいるかもしれん」と言ったそうなんです。ついついその方が「神や仏の存在信じてるんですか?」と聞いたら、「俺は信じてる」って言うんですよ。あれだけ人を殺しておいて。

三木大雲住職 ©文藝春秋(撮影・宮崎慎之輔)

 理由を聞くと、「昔、修行僧がうちへ遊びに来た。その時にいくつかの毒入りの缶コーヒーと1個だけ毒の入ってない缶コーヒーを置いてどれか好きなのを飲めって言ったら、そいつは3回とも毒なしを引いて元気に帰っていった。最後にもう一度試そうと思って、もう1つ飲めと勧めたら、お腹いっぱいなんで結構ですと帰っていった。もしかすると、あいつは本当に神や仏に守られてるのかもしれんと思った」と話したそうです。

「そんな人知りませんか?」と、いろんなお坊さんにあたった結果、私のところへ来られて。「それって三木さんじゃないですか?」と言われて、「私です」と。神や仏に守っていただいてるなっていうお話でございます。

ADVERTISEMENT

毒入りコーヒーを回避できたのは神や仏に守られているおかげ

 もっと怖いのが、実はこの犯人は関西に行ったことないんですよ。“京都生まれ京都育ち”と私には言っていたんですけど、一切京都には来た事なかったらしくて。しかも“カラスマル”って。字にすると“烏”に“丸”なんですけど、京都人は「カラスマ」って読むんですよね。あれを“カラスマル”と言われたのも、今思うと不自然だったんですけど。関西人って変な関西弁を使われるとすぐわかるんですよ。ところがね、非常にナチュラルな関西弁だったので、やっぱり頭が良い方だったんだなと思いましたね。

――住職にとって、犯人はどんな人物だったのでしょうか。

三木 無茶苦茶話がおもしろくって。私が一番最初に行った時にこの社長すごい人だなと思ったのが、黒い背広を着た、いわゆる反社的な方が来て、「あの車なんですけど本当に良いですか?」と言って。丸太小屋の事務所から窓越しに、ロールスロイスみたいな黒い車が停まっていて。すると社長は「おー、あれか。よしよしあれでいいわ」と言って、その場で700万円。帯封のついた札をバサバサ出されて。それをその黒服の人が「じゃあこれでお譲りします」って言って持って帰らはったんですよ。「今、社長あの車買わはったんですか?」って聞いたら「おうおう、そうそう」みたいな。ただ、名義変更とかどうなっているのかなって思いますけどね。

 あとは、「007で使われたヘリコプターをこないだ買った」とおっしゃっていて。非常に話がおもしろいんです。今思うと嘘だったのかもしれないし、私を騙すためだったのかはわからないですけどね。

――やはり毒入り缶コーヒーを回避できたのは、神や仏に守られていたからでしょうか。

三木 そうですね。その犯人すらもそう思ってくれたので。私自身もその後宝くじが当たったりもしていますから。

三木大雲住職 ©文藝春秋(撮影・宮崎慎之輔)

#3へ続く)

怪談和尚 (文春e-book)

三木 大雲・原作 ,森野 達弥・作画

文藝春秋

2021年8月5日 発売

 YouTubeの「文春オンライン」公式チャンネルでは、三木大雲和尚による怪談説法を配信しています!