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「いつまで続けるのか、恥ずかしい」

 金融庁もコロナ禍への対応によって業務のデジタル化が進んだ。もともと東京オリンピック・パラリンピック期間中の出勤抑制に備えてテレワークの仕組みは構築していたが、モビリティに優れた軽量PCの配布や、複数のオンライン会議システム、ビジネスチャットツールの活用が進み、非対面でのモニタリングも可能になりつつある。

©istock.com

 また、政府が廃止を宣言した日本独自の脆弱なセキュリティ対策「PPAP(パスワード付きzipファイルの運用)」は、金融庁も2021年1月をもって運用を停止した。「一部金融機関や、海外とのやりとりを担う国際部門から『いつまでPPAPを続けるのか、恥ずかしい』と言われ続けてきました。解消できてよかった」と、稲田は胸をなでおろす。だが、長く続いた作法をすぐには変えられないのか、未だにPPAPを続ける職員を見かけることもあるらしい。現在はそれを見つける度に改善命令を出しているとのことだ。

 IT技術の発達で、従来のルール通りでなくても安全性が確保できるようになった。むしろ利便性を置き去りにして古いルールを頑なに守り続けようとすることが、危険な回避策やシャドーIT(企業や組織の管理者の認知外で社員らが使うITデバイスなどのこと)を生み、脆弱性に繫がることもある。よくある「拡張子を『zi_』から『zip』に変更して開封してください」といったものはその最たる例だ。

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 ツールは入れたら終わりではなく、使い勝手や生産性を継続してモニタリングし、改善していくといったサービスマネジメントの視点が必要だ。金融庁は今、DXのスタートラインに立ったばかりだ。まずは、民間の新しい視点を取り入れ、時代に合った最適なシステムを構築することで、金融庁自身、そして金融業界全体の業務改革を推進していく。

デジタル庁と各省庁、双方で人材採用すべき?

酒井真弓氏 ©文藝春秋

 さて、金融庁のDX人材公募が報じられると、SNSには「デジタル庁を新設しながら各省庁でも同様の人材を採用するべきか」といった議論が散見された。DX人材はデジタル庁に集約し、省庁横断的に活動していくほうがいいということだろうか。筆者は、デジタル庁にいくらよい人材が集まったとしても、各省庁の中にDX人材がいなければ、結局、デジタル庁と各省庁が受発注の関係になるだけで改革は見込めないと思う。

 デジタル庁は定員393人(新規増員160、他府省からの振替233)、非常勤職員と合わせて500人程度を集める。各省庁からデジタル庁に出向し、デジタルに揉まれて戻っていくという流れを作ると同時に、各省庁もDX人材を採用・育成し続け、それぞれの領域でDXを進めていく。

ルポ 日本のDX最前線 (インターナショナル新書)

酒井 真弓

集英社インターナショナル

2021年6月7日 発売

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