京都・蓮久寺の三木大雲住職のもとには、助けを求める人が絶えない。ポルターガイストに悩まされている、人形をお祓いしてほしい、さまよう霊を供養成仏させてほしい……。
そんな実話や自身の体験など、現代の怪談、奇譚の数々を収めた『怪談和尚の京都怪奇譚 幽冥の門篇』(文春文庫)より、背筋も凍る「怖がり」を特別公開。見えない世界に触れることで、あなたの人生も変わる……のかもしれない。(全2回の1回目/後編に続く)
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「私、極度の怖がりなんです」と、ある女性が仰いました。
怖いという感情は、一種の防衛本能だと私は思っております。と言いますのも、私は高所恐怖症なのです。
人間は高いところから落ちますと、怪我をするか、悪くすると死んでしまいます。その危険を避けるためには、怖いという感情が必要なのではないでしょうか。
そういった意味では、怖がりは、防衛本能に優れているとも言えるかもしれません。
しかし、今回この女性が仰る「怖い」は、物理的な恐怖ではなく、霊的恐怖なんだそうです。
霊的なものに対して怖がりな方には、想像力が豊かな方が多いのかもしれません。
例えば、坂道で自転車のペダルが重くなった時、もしかしたら目に見えない何者かが、後ろに乗っているのではないかと思ったり、或いは、肩が凝って重くなった事を霊が肩に乗っているのかもと思ったり、想像が霊的現象に偏っているのかもしれません。
また或いは、単純に霊的感性に優れていて、未だ科学で解き明かされていない世界に入り込み易いのかもしれません。
さて、霊的なものに対して、極度の怖がりだと仰るこの女性は、一体どちらなのでしょうか。
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私がアルバイトをしているのは、百貨店の8階に、テナントとして入っている飲食店です。
この時は、コロナ禍と言うことで、時短要請の影響で、営業時間の短縮が続いていました。
それによりこの日は、閉店が午後8時となっていました。ですので、ラストオーダーは、午後7時半に設定されていたんです。
ラストオーダー直前にやってきた客
私はラストオーダー15分前くらいから、各テーブルを回って、追加注文がないかどうかを聞いて回りました。
大抵のお客様が、時短営業中で、あと30分で閉店なのを知っておられるので、追加注文は、飲み物が数点といった感じでした。
ラストオーダーを聞き終わると、お店の前に、クローズの看板を立てるのですが、立てるのと同時くらいに、一人の中年男性がまだ入れるかと聞いて来られました。