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「そうですか、それじゃお先に失礼します」私は、バイトの服を着替えると、急いで店を出ました。

 実は私には、急いで帰りたい理由があったんです。時短要請の影響で、百貨店の一部店舗は閉店していました。もちろん、百貨店自体も早くに閉まってしまいます。

「ランプの点滅しない階には止まりません」

 この日も、既にエスカレーターは止まっていました。急いでエレベーターに乗り、1階を押しました。しかし既に遅かったんです。

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「ランプの点滅しない階には止まりません」感情の感じられないアナウンスが流れました。  

 この百貨店では閉店後、社員専用出入り口以外は閉まってしまいます。ですので、一旦、3階で降りて、その階の社員専用出入り口に行き、そこから階段で地下にある社員専用出入り口に行かなくてはいけないんです。

 私が早く帰りたかった理由は、これなんです。

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 最低限の電気しか使われない建物内は、薄暗く、自分の歩く靴音だけが、コツコツと響きます。それが反響すると、誰か後ろから後を付いてきているような錯覚まで感じてきます。

 子供の頃から怖がりで、怪談やホラー映画なんかは、今でも大の苦手なんです。

 そして、地下の社員出入り口なんですが、外へと繫がる扉までの通路が一番苦手な場所で、とても暗く、ホラー映画に出て来そうな雰囲気がするんです。この百貨店が建った頃は綺麗だったんでしょうが、お客さんからは見えない場所だからか、一見すると廃墟かなと思えるくらいなんです。

 平常営業の時は、商品の運び込みをする人などが時々いるんですが、時短要請が出てからは、極端に人が減り、私一人で通路を歩かなくてはならないので、それは避けたいと思っていたんです。

 一人であの地下に行くことが怖い私は、一旦エレベーターから出て、店長を待つことにしました。

エレベーターを見つめるマネキン

 待っている間、周りを見ると、エレベーターに視線を向けているマネキンに気が付きました。このエレベーター前は、アパレル関係のお店が幾つもあり、店舗ごとに立っているマネキンが「私を見て」と言わんばかりにポーズを取っていました。

 誰もいない店内で、誰かが来るのを待っているマネキンは、まるで今の私みたいだと考えると、何故か恐怖心が大きくなってきました。

「店長早く来てくれないかな」特に店長が悪いわけではないのですが、なかなか来ない店長に苛立ちを覚えました。

 これは私だけかもしれませんが、人を待つとか何かを待っていて苛立つと、トイレに行きたくなるのです。この時が正にそうでした。それに、お店を出る時に店長が出してくれたジュースの影響もかなり大きかったと思います。