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「えっ、見たって何をですか」驚く私に警備員さんは「いや、何でもないです」と話をはぐらかしました。

 もしかすると答えが怖いものかもしれないと感じた私は、これ以上聞くのをやめました。

 警備員さんは、軽く会釈をすると、鉄の扉の中に入って行かれました。

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地下のトイレに駆け込んだ

 一人になった地下通路で、私は出口に向かって歩き出そうとしたのですが、その時、耐えきれないほどの腹痛が襲って来たんです。

 このまま出口に行ったとしても、近くにコンビニはありません。近くの店舗もとっくに閉店しているはずです。

 地下通路の外への出口とは逆の方向に、トイレの案内板が見えました。

 一瞬、出口とは逆方向に行かなくてはいけない事に抵抗を感じましたが、もうそんな事を言っている場合ではありませんでした。痛みというものは、恐怖心を和らげてくれるのかもしれません。

 私は腹痛が酷くて、もう走ることも出来ませんでした。ただトイレの案内板の矢印の差す方向へと、薄暗い地下通路をゆっくり歩いて行ったんです。

 案内板から少し進んだ所にトイレはありました。扉には男女を示すプレートが貼られていたのですが、どちらが女子トイレか分からない、昭和なデザインの物でした。幸い、黒と赤で区別されていましたので、私は赤いプレートの方に入りました。

 中はとても広く、壁の両サイドの個室の一つに、私は急いで入りました。やっとの思いで用を足していると、先程まで忘れていた恐怖が蘇って来ました。トイレ自体は広く感じたのですが、個室1つ1つは横幅が狭く、やはり昭和に作られた物だと思いました。

 消すことが出来ないのか、お客さんが使用しないからか、今では珍しく、壁に落書きがされていました。

「決して上を見てはいけない」

 落書きには、イニシャルで悪口が書かれていたり、給料が安いなどの文句のような物ばかりが書かれていました。そんな中、足下の目立たない所に、何やら小さな文字がありました。そこにはこう書かれていたんです。

「決して上を見てはいけない。目が合うと石にされる」

 私はゾッとしました。勿論、冗談か何かで書かれたものなのでしょうが、今の私にはとても恐怖を感じるものでした。

「早く用を済ませて帰ろう」

 私が用を済まし、個室から出ようとしたその時です。

「ギー、バタンッ」と、扉の音がしました。