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「誰かが入って来たのかな」その割には足音が全くしませんでした。

 私は怖くなり、個室トイレの中で様子を見ることにしました。

「ゴホッ」誰かの咳払いのような声がしました。

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「やっぱり人が入ってきたんだ」私は人が近くに居てくれるという安心感を感じました。

 しかしそれは、一気に恐怖へと変わっていったんです。

反射的にトイレの上を見てしまうと……

 咳払いの後、急に低くハスキーな叫び声が聞こえて来ました。

「あーーーー、あーーーー」

 私は恐怖のあまり、足が震えて来ました。それでも「ここに居るのは危険だ」と思った私が、思い切って外に飛び出そうと決心した、その時です。

「あーーーー、あーーーー」という声が、さっきより近くに聞こえて来ました。

 そして急に、ピタッと静かになったんです。

 一体何が起こっているのかと、私は反射的にトイレの上を見てしまいました。

©iStock.com

 青白い足の裏が2つ見えたんです。

 更に良く見ると、見たことのない髪の長い女性が、私の頭上に浮いていたんです。

 そして、その女性は、見下ろすように私を見ていたんです。

 私は恐怖のあまりその女性を見たまま、石のように固まってしまいました。

 するとその女性は、私の目をじっと見つめながら、カッと目を見開いて、再び 「あーーー」という奇声を上げました。

 その瞬間私は、あの落書きを思い出しました。

「決して上を見てはいけない。目が合うと石にされる」私は目を閉じて、下を向きました。

「そうか、君もか」

 その瞬間、私の体に力が戻ってきたように感じました。

 そのまま私は目の前の扉を押し開けると、地下廊下へと飛び出したんです。そして、一気に外に繫がる出口へと走りました。誰にも邪魔されることなくやっと、私は外に出ることに成功したんです。

 もう二度とこんな思いをするのは嫌だと、次の日、店長に昨夜体験した話を電話でしました。そしてバイトを辞めさせて欲しいと言いました。

 勿論、昨夜の話を信じてくれるとは思いませんでしたが、全てを話してみたんです。

 すると店長は、こう言ったんです。

「そうか、君もか」と。

「どういう意味ですか」私は怖いながらも、その意味について聞きました。

「実は、君の使ったというトイレ、そこには実在しないんだよ。いや、正確にはあるんだけどね」

「どういうことですか」