京都・蓮久寺の三木大雲住職のもとには、助けを求める人が絶えない。ポルターガイストに悩まされている、人形をお祓いしてほしい、さまよう霊を供養成仏させてほしい……。

 そんな実話や自身の体験など、現代の怪談、奇譚の数々を収めた「怪談和尚の京都怪奇譚 幽冥の門篇」(文春文庫)が刊行された。

 今回は三木住職がある男性から相談を受けた“奇妙な実話”を公開。見えない世界に触れることで、あなたの人生も変わる……のかもしれない。(全2回の2回目/前編へ続く

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散歩のたびに同じ場所で吠える犬

 私は以前、犬を飼っていたことがありました。甲斐犬といって、獰猛な犬でしたが、非常に従順で賢い犬でした。このお話も犬にまつわるお話です。

 ある男性が初めて犬を飼われたそうです。そのワンちゃんとの散歩コースには大きな池があって、いつもその周りをぐるぐると散歩していたそうです。

※写真はイメージ ©iStock.com

 散歩コースには、マラソンをする方もいたのですが、そのワンちゃんは人が側をパッと通っても吠えたりすることは一切なかったそうです。また、別の犬が向こうから歩いて来て突然吠えかかってきても一切動じないワンちゃんでした。

 ところが、散歩コースのある場所へ行くと非常に大きく吠える。その場所には、石でできたベンチがあって、ワンちゃんはそのベンチに向かって吠えているようでした。

 毎日、池の周りを散歩していても、必ずその場所へ行くと吠える。

 「なぜここに来るといつも吠えるのかなぁ」

 男性は気になっていたものの、いつもそのまま通り過ぎていたそうです。

 ある日、男性はいつものようにベンチに向かって吠えるワンちゃんに対し、「もうこのまま吠えさせておけばいいか」と手綱を緩めたそうです。すると、ワンちゃんはベンチの下あたりに向かってワンワンと吠えかかっていきました。

 男性がベンチの下を覗いても、何もない。「不思議だなぁ」と思いながらも、そんなことがしばらく続いたそうです。

※写真はイメージ ©iStock.com

 そんな散歩が日課になっていた頃、ふと男性は「もしかするとあのベンチのところで何かがあったのではないか」そう思って、その場所をインターネットで調べることにしました。

 すると、すぐにインターネットでその場所に関連した記事が出てきたそうです。その記事を読むと、実は以前、ワンちゃんが吠えていたベンチの下にはお亡くなりになった方のご遺体が遺棄されていたそうです。

 ワンちゃんは人間の匂いを嗅ぎわけて吠えていたのか、あるいは霊的な何かを感じて吠えていたのかはわかりませんが、ワンちゃんが吠えていたそのベンチは、まさに事件があった場所でした。

 男性は、「うわー、偶然とはいえこんなことがあるんだなぁ」と思いながらも少し怖くなって、散歩コースを変えることにしたそうです。